イニシエーションファイト

3/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 拳を合わせて試合開始。最初はニヤついていた相手は、俺が顔にジャブを打ってから顔つきが変わった。ジャブはガードされたが、こちらの思いは伝わったらしい。にやけ面から怒り面になって反撃してきた。その顔の方が大分マシだ。にやけ面が目の前にあるとついぶん殴りたくなるからな。  試合は消極的な展開になっていた。俺が前に出ようとする相手を抑え、相手は攻め倦ねていた。こちらが負ける気があるのか分からないのだろう。相手は徐々にイラついていることが見て取れた。分かりやす過ぎねぇか?そうこうしていると1ラウンド目が終わった。コーナーに戻り相手の顔を見ると爆発寸前の顔をしていた。なかなか短気な奴だな。しきりにセコンドと話しているが八百長話の確認だろう。ご苦労なことで。続く2ラウンドの開始のゴングと同時に相手は無理やり組み付いてきた。なんだ?男と抱き合う趣味はないぞ? 「てめぇ負ける気あるんだろうな?」  組み付きながら相手が囁いてきた。野郎の囁きはゴメンなんだが。 「ああ、あるよ。」  俺は仕方なく答えた。囁きあってるこの状況がおぞましい。要件済ませて戻ろうぜ。 「ならさっさとパンチ喰らって倒れろ。」 「やだね。負けてやるが譲るのは判定勝ちだ。精々倒れないでくれよ?お馬鹿さん。」  そう言って勢い良く離れた。相手は顔を真っ赤にして怒っていた。対する俺は恐らくにやけてるんだろう。さぁ残り7ラウンド。長い長い20分だ。  戦って分かったが、コイツはKO狙いの攻撃的なインファイターだ。俺のガードを下げたくて、ワンツー主体の攻撃をこれでもかというくらい仕掛けてくる。パンチは重く、受けるならそれなりの覚悟がいりそうだ。ただ、挑発したせいか受ける方もキツいが攻める方も辛い、かなり急いだ攻めをしている。ワンツー、ワンツースリー、フック、フック、フック、スウェー、ワン、ワンツー…  俺は相手のパンチを凌ぎながら、ボディを重点的に攻めていった。顔に当たればまぐれで倒す可能性がある。まぁ相手の攻めが激しいからこちらは攻め難いが。ポイントで行けば相手が優勢だ。このままで行けばだけど。2ラウンド目が終わり、3ラウンド、4ラウンドにして相手から焦りが5ラウンド、6ラウンドにして疲れが見えてきた。俺も昨日のトレーニングの疲れが尾を引いている。頭を空っぽにするのも楽じゃないもんな。 「おう、調子はどうだ。」  コーナーに戻った俺にオヤジが茶々入れてきた。うるさい。こちとら疲れてんだ。 「見れば分かんだろ。絶好調だ。」 「大して動いてないのに疲れてんのか?」  俺はオヤジを睨みつけた。睨みつけるだけにしておいた。疲れてるからな。視線をオヤジから対戦相手に向き直した。相手も疲れてるが相変わらずこちらを睨みつけている。威勢のいいことで。さてと、そろそろゴングが鳴る。折り返し地点も過ぎた。こちらも気合いを入れないと。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!