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モフモフしあわせ大団円
「おおおおおおっ、立った。カヨ、見たかい?クロードが、クロードが立った。自分の力で立った」
「陛下、皇子が立ち上がるたびに興奮するのはおやめください。親バカすぎて恥ずかしくなります」
これでもう何十回目の注意である。
皇帝陛下とわたしの息子のクロードは、最近つかまり立ちが出来るようになった。ヨロヨロと立ち上がるたび、皇帝陛下は大興奮する。
わたしたちの皇子は、皇帝陛下とおなじオッドアイである。それがまた、彼に似て美形なのである。歩きだすのも言葉が出てくるのも、もう間もなくにちがいない。
「この分では、もう間もなく剣を振れるかもしれないな。皇子、ヴィクトル叔父が最強の剣士にして差し上げますよ」
親バカだけじゃない。叔父バカもいる。
「なにをバカなことを。皇子は剣より力自慢だ。立派な体格になって、皇国一怪力の持ち主になるんだ」
ああ、近衛隊隊長バカもいるわよね。
「それこそバカなことだ。剣や力はもう流行らん。頭脳だ、頭脳。皇子、わたしが頭脳明晰な皇帝にして差し上げます」
執事バカまでいる。
「さあさあ、みなさん。皇子を褒め称えるのはもう充分です。そろそろわたしにモフモフをさせてください」
「皇妃殿下、仰せのままに」
執事のローマンが頭を軽く下げた途端、皇宮の居間に獅子と狼と熊の三頭の神獣があらわれた。
わたしの癒し、モフモフよ。
「きみが彼らをモフるのは、やはり見ていて楽しいものじゃないな」
「あら、焼きもちですか、陛下?」
皇帝陛下は、わたしを抱き寄せた。
皇子がモフモフを見つけ、笑い声を上げた。同時に、ゆっくりと一歩を踏み出す。ところが、よろめいてしまった。
皇帝陛下と同時に、皇子に手を伸ばそうとして……。
が、皇子は倒れず踏ん張った。一歩、また一歩とモフモフたちに近づいてゆく。
「カヨ、すごい。すごいぞ。わたしたちの愛息は、もう歩いている。どうしよう、感動しすぎて涙が……」
「いやですわ、陛下。皇子くらいの月齢だと、歩きだすのは遅くも早くもありません」
「モフモフッ!」
え?
「モフモフッ!」
なんですって?
皇子はヴィクトルに抱きつき、たしかにそう叫んだ。
「きいたかい?喋った。わたしたちの愛息が喋った」
大興奮の皇帝陛下に、力いっぱい抱きしめられてしまった。
それにしても、第一声が『モフモフ』ですって?
父上や母上ではなく、『モフモフ』なわけ?
さすがはわたしの息子だわ。
「カヨ、しあわせすぎて怖いくらいだ」
そのとき、皇帝陛下がささやいてきた。オッドアイは、やさしく満ち足りた光を発している。
「わたしもです、陛下」
「この感動を、また味わいたい。十回でも二十回でも味わいたいよ」
「いえ、陛下。さすがにそこまで子をなすのは……」
最後まで言わせてもらえなかった。
なぜなら、唇を彼のそれでふさがれてしまったから。
しあわせすぎて怖いくらいだけど、このしあわせがいつまでも続いて欲しいと願わずにはいられない。
そう願ってもいいわよね?
(了)
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