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獣人の国にて溺愛される 3
その翌日から、それはもう大変な目にあった。
とにかく、皇帝陛下も執事のローマンも皇帝陛下の弟のヴィクトルも近衛隊の隊長のマティアスも、わたしのことを放っておかずひっきりなしにかまってくれるのである。
とくに皇帝陛下はひどい。もちろん、いい意味にだけど。
最初のうちは戸惑うばかりだった。自分自身、これまでこんなにかまわれたことはなかった。母は早くに亡くなり、父は昔気質の性格の為に可愛がってくれるようなことはなかった。
そして、くそったれの婚約者にいたっては、言うまでもない。
戸惑いが鬱陶しいにかわるまでに、さほど時間はかからなかった。とにかく一人にしてほしい。だから、ちょっと冷たくしたり、不機嫌さ全開にしたりしてみた。
それでも、皇帝陛下は少し距離を置き、さりげなくかまい、お世話をしてくれた。
鬱陶しいのがすぎたら、つぎは逆にかまってほしくてたまらなくなった。同時に、嫌われたらどうしよう。飽きられたらどうしよう、と焦燥に苛まれた。それから、気に入られたいという欲求も出て来た。
このときすでに、わたしは皇帝陛下のことが好きになっていた。ただ、自分ではそれを認めたくないということもある。
なにせわたしは、彼を、彼らをだましているのだから。
ずっとそれがわたしの足枷になっている。だから、一歩を踏み出すどころか、ある一定の距離を置いたところからしか彼に接することが出来ない。
わたしがわがまま王女としてここに来て、すでに一か月が経とうとしている。
この頃になると、わたしはここでの生活にすっかり慣れてしまっていた。
不思議でならないのは、皇帝陛下が皇都をあけたままでいいのか、ということである。
「それなら心配はいらない。皇妃探しは、皇帝の責務の一つだからね。それに、わたしがいなくとも、側近や官僚たちがうまくやってくれている。まぁ、さすがに半年や一年というのは難しいけどね。一度、顔を見せに戻ってすぐに戻ってきてもいいし」
この頃には、彼もくだけた口調になっている。
「陛下、陛下こそわたしをどう評価されていらっしゃるのですか?陛下もまた、わたしを感じてらっしゃいますよね?どう結論をくだされるおつもりでしょうか?」
「ええっ?わたしが、きみを評価する?どうしてだい?」
「どうして?当然ではありませんか。まさか、だれでもいいというわけではありませんよね?陛下にだって好みがあるはずです」
彼の美形に、困ったような表情が浮かんだ。
「参ったな。一目惚れというのだろうか?きみを見た瞬間、ああこの女性しかいない、と。胸がドキドキし、たまらない気持ちになってしまった。わたしだって、これまで何人もの人間の女性に会ったことがある。だけど、こんな気持ちになってしまったのははじめてだ。きみがここにやって来てから、あっという間にときがすぎてしまったけど、いまだにドキドキしてしまう。これ以上、説明のしようがないんだ」
「陛下……」
ドキドキが止まらないのは、わたしも同じです。
「ドミニク。きみは獣人が人間を傷つけたり、ましてや食べたりなどしないということを理解してくれているよね?」
「陛下、問われるまでもありません。あなたにお会いしたその日に、あなたからおききしました。その瞬間から信じております」
「では、そろそろわたしの姿を見てもらったほうがいいだろうね。その上で、決めてもらってもいい」
「わたしの姿?」
「ああ、きみにはまだ見せていないからね。ところで、午後から遠乗りに行かないかい?」
「は、はい」
ここに来て、皇帝陛下やヴィクトルから乗馬を習ったのである。
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