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獣人の国にて溺愛される 4
今日の遠乗りは、いつもとは違うところに行くらしい。
向かった先は、城から一番近い町である。
小さくって可愛らしい町で、石畳を馬で進んでいると、町の人たちは皇帝陛下に気軽に挨拶をしている。
皇帝陛下も、笑顔で手を振っている。
「じつは、きみがここに来る少し前に大雨が降ったことがあってね。町の老朽化している病院が修復不能なほど崩壊しまったんだ。それで、ヴィクトルの工兵部隊に建て替えてもらっているんだ。今日は、その様子を見たかったのと、きみに町の人たちの様子を見せたかったんだ」
普通ののどかな町に暮らす町の人たち。
どこからどう見ても、わたしの国の村や町とかわりはない。
皇帝陛下と馬首を並べて歩ませていると、老若男女関係なくだれもが笑顔で挨拶をしてくれる。
「この町の人たちは、ほぼ人なんだ。長い歴史の中で、獣人も人と交わらねばならなかった。そうしないと、滅ぼされてしまう。なにせ、人の数の方が多いからね。人はわれわれのことを怖れ、蔑みつつもわれわれを迫害し続けた。われわれの祖先は、人の手の届かないところに逃げ隠れ、そこで子孫を残したりした。一方、人と交わることで共存の道を選んだ者もいる。現在は、ほとんどが人と変わらない。薄れた獣人の遺伝子が強く出るような場合は、人より五感が優れていたり、身体が強靭であったり俊敏であったりする。この国の多くが、いまきみが見ているこの町の人とおなじだ。日常的に野蛮なことが行われている、というわけじゃない」
周囲を見回すと、穏やかである。町の人たちも愛想がよく、はじめて見たわたしにも笑顔で挨拶をしてくれる。
病院は、町の中心部近くにある。
木製の二階建ての病院は、もう間もなく完成するらしい。
軍服姿の兵士たちが忙しく行ったり来たりしている。
皇帝陛下は、兵士たちに労をねぎらった。
それから、町を後にした。
「城にはもう一つ別棟があるんだ」
つぎに向ったのは、城の敷地内にある違う建物だった。
病院の入院患者を収容しているらしい。町の病院は、養護院や孤児院も兼ねている。かえって入院患者よりその数は多いとか。
「彼らにはここですごしてもらってもいいんだけど、この城は体の不自由な人やお年寄り向けに作られていないし、働く人や面会人も、ここだと遠くて行き来がしにくい。だから、急遽工兵部隊の力を借りたんだ」
皇帝陛下は、馬からおりてからわたしを敷地内の森の中へと導いた。
すると、森の奥の方から子どもたちのはしゃぎ声がきこえてくる。
木々の間をぬうようにし、その声の方に向かった。
人の気配が近くなってきた。
名前も知らない大木の横を通りすぎたとき、その光景が目に飛び込んできた。
いろんな背丈の子どもたちが戯れている。それじたいは問題はない。子どもなんですもの、元気いっぱい遊ぶのは当然だから。
その相手をしているのが問題なのである。
木漏れ日が子どもたちとその相手に降り注ぎ、キラキラと輝いている。
この光景は、昔お話で読んだ光景そっくり。
見たこともない大きな赤い熊と、銀色に輝く巨狼が、子どもたちとたわむれている。
百歩譲って、絵になるからそれも問題ないとしましょう。
わたしにとって問題なのは……。
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