最終話 念願

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最終話 念願

当日。 私たちは真っ新な下着をまとい、 飛び立つ時間まで、 各々の時間を過ごしていました。 私はもちろん、 手紙を書きます。 一通は母へ、 もう一通は武史へ。 私はペンを手に取り、 まず母への感謝や思い出を述べました。 そして愛する人へ、 私の悠久の愛を綴りました。 「武史へ 初めて君に手紙を書いています。 決してこれは遺書ではありません。 君への想いをほんの一部だけ書きますが、 私たちの愛は、 こんな紙切れで言い表せる程、 浅いものではない事、 君が一番わかっていると信じています。 私の今の思い、 覚悟だけ伝えます。 私は、 晴れやかで満たされて、 この日を迎える事が出来ました。 それは君に出会えたからです。 そして私の傍らには、 一緒に往ってくれる人もいます。 私はこの地で彼を愛しました。 命が尽きるまでの限られた間、 君の代わりとして。 彼もまた私を愛する人の代わりにしました。 そうする事で、 互いの最愛の人の愛を、 改めて確認する事が出来ました。 私は君に愛してもらいました。 私はこれからも愛し続けます。 君は、 天命を全うするでしょう。 それまでの間、 私と同じように、 今生で愛する人を見つけて、 満たされた日々を過ごして下さい。 どうしても、 私が恋しくなったなら、 星を見て下さい。 私は、 南十字星の彼方にある小さな星の光になって、 君を信じて、 見つめています。 寂しいとは決して思わないで欲しい。 私は君を必ず迎えに行きます。 私達の愛は、 まだ始まったばかり。 これからが花を咲かせる時です。 私は君の名を呼びながら、 南の地に肉体だけは捧げます。 そして、 永遠の世界から、 私の愛を君に注ぎます。 君は私の愛を道標に、 生きてください。 私達の愛の続きは、 ちゃんと用意しておくから。 では、 行ってきます! 辞世の句 神風を 纏いて我は 天翔ける 君に護られ 往くぞ嬉しや 誠哉」 私と俊朗は互いに手紙を、 見せあいました。 俊朗 辞世の句 この体 海の藻屑に 還るとも 真に帰るは 君の胸なり 俊朗は、 深く頷くだけでしたが、 やはり達観した表情です。 私も同じ。 さあ、 最期の時だ。 俊朗は片道切符の愛機に乗り込むと、 私に向かって満面の笑顔で親指を立てました。 私も当然応えました。 飛び立つ俊朗を見送り、 私もすぐ後に続きます。 白雲をすり抜けている時間、 私も笑顔でした。 これからは、 武史の事だけを、 見ていられる。 やがて私の元に戻る武史を、 やっと愛でる事が出来る。 会えなかった日々から、 いつでも傍に居られるようになる日が、 これから待っているのだから、 笑顔にならないはずがありませんよね? 敵艦に向かう事など、 それに比べてなんて小さな事だろうと。 私は眼前の敵艦に向け機体を鋭角に傾け、 一気に加速し、 一筋の燃えさかる光の矢と化しました。 そして念願の星となる事が出来たのです。
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