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2. あのぉ、出て行っていただけますか?
「……死亡の女性は風俗店に勤務する◯◯さん(26)と判明、殺人事件として捜査を行っています。では事件のあった雑居ビルからの中継です」
ーーう、うぅぅ~ん。
意識が戻った様だ。テレビ付けっぱだったのか。それにしても怖い夢だったな。瞬間的にでも黄泉の世界で女性の亡霊と話をした……いえ、あれはただの夢だ。そんなのあり得ない。
ムクっと起き上がった私は着替えを済ます。心なしか頭痛と首筋に鈍痛を感じた。倒れた拍子に打ったのかもしれない。
まあ、気を取り直して小説の続きでも読もうか。
ーーと、ベッドへ雪崩れ込んだ時だった。
『……ねえ、貴女って変わり者なの?』
はいっ!?
『だって花鉢の量、半端ないじゃん。それに部屋中本だらけ。ああ、かなりマニアックなお嬢さんなんだー。……ま、贅沢言ってられないか』
鳥肌が立った。お客様など招いたことがない部屋で、はっきりと女性の声が聞こえたのだ。
何処から声がっ!? 誰もいないよ?
『ここよ、ここ。貴女の心の中だよ』
ひぃぃっ! こわっ! なんなのよお!
『さっき挨拶したじゃん。ごめんあそばせ~って』
えっ……ま、まさか夢に現れた亡霊!?
『自己紹介するわね。わたくし伊集院ララ。貴女の肉体に宿った霊魂よ。宜しくね』
宿った? そんな勝手なことされては困ります。
『だって、死のうとしてたじゃん。だからわたくしが代わりに入ってあげたのよ。そしたら急に割り込んできちゃて、もうびっくりだよ~』
あれは夢では無かったのだ。全くもって信じられない出来ごとが現実に起こっている。
『あのぉ、百歩譲ってそういうことにしましょう。でもやっぱり私、生きることにしましたので、申し訳ありませんが出て行っていただけますか?』
なるべく平常心を装いつつ、丁寧な言葉遣いで懇願してみる。
『あ、それはもう無理みたい。つか、わたくしが先に入っちゃったから、どちらかと言えば貴女が間借りしてるんだよ』
なんで私の肉体なのに私が間借りしないといけない立場なのよ!
『あー、でもわたくしが出られるとしたらーー』
『出られるとしたら……何ですか?』
『う~ん、そうね。復讐が叶ったら成仏出来るかもねぇ』
『復讐ですか? つまり、この世に未練があるから貴女は亡霊として彷徨ってた。そこへ魂が抜けた私に気がついて生き返ろう……と?』
『察しが良いわね。そういうことよ』
『具体的に未練とは? えっと、出来る範囲で協力しますからその暁には出て行っていただけます?』
『良いわ。わたくしの願いは、ある男を抹殺したいの。彼を見つけ出し殺してやるわ!』
こ、殺すって!? それじゃ私が殺人犯になっちゃうじゃない。そんなこと出来る訳ないでしょう。
『あら、殺す方法は幾らでもあるわ』
いえ、そう言う話じゃなくて……ん?
実は先程から違和感を感じざるを得ない。会話するつもりのない意識的な独り言なのに、彼女のレスポンスが早いのだ。
『ああ、そこは気にしないで。貴女の心理は全てお見通しなの。会話しなくても何を考えてるのか、わたくしには分かるのよ。うふっ』
いや、うふって、気にしますとも。大いに。それに私には貴女の心理が読めませんけど? これって不公平ではないですか?
『それは、貴女がこの肉体の主人じゃないからよ。お分かり? 主人は わ た く し なの』
さ、最悪だ。人生最悪だ。何でこんな訳の分からない素性の女に私の肉体を乗っ取られないといけないのか。しかも心の奥底まで見透かされてるし。
ーーって、今思ったことも全てバレバレとは何とも悲しいわ。
『取り敢えず、一つの肉体に二つの魂が共存した様だから、仲良くするしかないでしょう。ギブアンドテイクでね。干物女さん!』
『その呼び方はやめていただきたいです!』
あぁ、自分の意識の中に他人がいる。
二十四時間常に。鬱陶しいに決まってる。
一人の世界が好きな私は耐えられそうにないわ。
どうしましょう……。
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