70人が本棚に入れています
本棚に追加
35. 何を伝えれば良いのでしょうか?
ところが彼が手に取ったものは凶器ではなく、携帯電話だった。それを私に差し出す。
「これは?」
「まぁ拾ったと言うか……君の薄気味悪い戯言は、このロックが解除できたら信じることにしよう」
『ラ、ララ様?』
『ええ、わたくしの携帯で間違いないわ。パスワードはね……』
『……はい、かしこまりました』
すかさず聞いた番号をうつ。するとララ様の美しい写真と思われるホーム画面が開いたーー。
「部長、解除しました」
ドヤ顔で彼に向けてその画面を見せる。
「あっ、あぁぁ……な、何てことだ……」
「これで分かって頂けましたか?」
「し、信じ難いが君の言うことは本当か……? 綾坂さんは……ララなのか?」
画面を見ながら部長は観念したかの様に、その場へ座り込んでしまった。
「私の心にララ様がいらっしゃいます。会話もできます。パスワードも先程教えてもらいました」
「……そうか。ララはそこに居るのか。それで君は彼女にそっくりなんだな。謝恩会でチラッと見た時からそう思ってたんだ。似てるってね」
「はい。宿った時から徐々に顔と身体が変化していったのです」
しょんぼりと頭を項垂れた部長は自分を納得させるためか、何度もうなづいた。
「ララと話させてくれないか?」
「は、はい。では聞いてみますね」
『ララ様? 何を伝えれば良いのでしょうか?』
『迷惑以外の何者でもない。さっさと自首しなさいって……それだけよ』
「あの部長、ララ様は……」
私はその言葉を伝えた。
「済まない。私は君に狂ってしまった。刺したのはセクハラがバレるからではなく、そこまでして私を拒否することが許せなかったのだ。ララ、本当に申し訳なかった。……これから警察へ出頭する」
よろよろと立ち上がった彼は会議室の扉を開ける。そこには人事労政Grの人たちが待ち構えていた。
「門前部長、貴方の出向は取り止めになりました。これから警察へ行きましょう」
「……分かりました」
労政の担当者は元警察官も含まれている。なので彼らに任せばもう心配はいらない。
「綾坂さん、迷惑をかけたね。では……」
両手を抱えられながら彼は連れて行かれた。
はぁーー。
極度の緊張感、恐怖心から開放された私は、ホッとしたのか壁にもたれかかってしまう。
『花、ありがとう。怖かったでしょう』
『無我夢中でした。あ、ララ様の携帯、私が持ってて良いのですか?』
『花にあげるわ。好きにして良いよ』
『では、じっくり見させてください』
先程のホーム画面が気になるのだ。初めてララ様の素顔が見れる。だけどーー、
ん? これは!?
その画像は笑顔のララ様だと思ってたけど、よく見ると〝綾坂花〟……つまり私が写っていたのだ。
『ララ様、この写真って?』
『わたくしの写真だけど?』
『いえ、これ私なのでは?』
『うふふ。わたくしたち元々似てるのよね』
えっ? い、いえ、ララ様が宿って私は変化したはずよ? おっぱいも大っきく育って、顔立ちだって……。
『まぁ、胸はわたくしの影響かもしれないけど、後はそんなに変化してないのよ』
『そ、そんなわけありません』
これがララ様の素顔ならば、自分とそっくりではないか。私はこれまで大きく勘違いしていたの?
『ララ様、本当にたまたま私を見つけ、肉体へ入り込んだのですか? それとも……?』
最初のコメントを投稿しよう!