4. 巨乳とかいらないんですけど。

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4. 巨乳とかいらないんですけど。

 パスワードを入力して秘蔵ファイルを開く。入社以来、事細かく記した画像付きモラハラ日誌とリンク先の動画ファイル一覧を主人へ披露した。 『マメだねぇ。って几帳面なんだ』  友人みたいに下の名前で呼ばれると恥ずかしい。親以外では中二以来だ。ずっとすみっこ女子だったから。 『あら、花もわたくしのこと、って呼んでも良いのよ』  えっと、自分にはですか?  でも、不思議と悪い気はしなかった。私には味方がいない。亡霊だろうが悪霊だろうが、主人と称する霊魂に秘蔵ファイルを共有したことで親近感が湧いたのだと自己分析した。 『ではララ様。始業までの間、プレゼンさせてください』  そこには二百件を超える事案が記録されている。  偽りの会議場所を指示された、私が対応するまで電話に出ない、質問に答えてくれない、ゴミに近い不要な書類を置かれた、仕事に必要なツールを隠す、傷つける……最早、業務妨害だ。  まだある。  コミニュケーション不足が起因するちょっとした伝達ミスを、まるで鬼の首を取ったかの如く責め立てる。皆様の前で。そして嘲笑いのマトにされる。  さらに、  時折り、聞こえる様に悪態を吐く。裏で私の悪口で盛り上がる。  大切なお花を傷つける……。 『全て、動画もしくはボイスレコーダーに残していますから、何時でも表に出せます。勿論、バックアップも抜かりなく』  先程撮影した画像を貼付け、ファイルを閉じた。 『なるほど。かなりのモノね。絵梨花Gr(グループ)もだけど放置してる上司や周りの人もどうかしてるわね。企業倫理が問われちゃうわ』  ーーお認めに? ちょっと嬉しいかも! 『主犯の絵梨花はどなた?』 『あ、彼女は本日在宅勤務です。他の人も有休や在宅が多くて』 『花は在宅しないの?』 『めちゃくちゃ在宅したいのですが、絵梨花がシフト決めて課長が承認されたので私は常に出勤です』 『それも意地悪か。益々許せないわね。直ぐにファイルを公開して訴えるべきよ!』  でも……。  私が上手くコミニュケーション取れないのが要因の一つだと自覚してる。なので躊躇いがあるのだ。  また、然るべき機関へ公開することで関係ない人にまで迷惑をかけてしまう。特にあの御方……。  結果的に私は〝反乱分子〟として上層部に睨まれ、配置転換など組織的なモラハラに遭うだろう。いかんせん絵梨花の御尊父様は役員だから。  そう考えると、まだ腹を括れないでいた。 『ふーん、迷ってるって訳ね。そのファイルはか……まぁ、やるなら退職覚悟で人事や組合じゃなく〝お上〟に訴えるしかないねー』  お上。つまりは労基署の相談窓口ーー。 『ララ様、それは最終手段に取っております。私の精神が続く限り、自分の存在価値を高め立場を昇華させて……絵梨花をと……うっ、苦しい、胸が痛ったーい!』  もお、何なのよお!  『花! 話は後よ、直ぐにトイレに行って!』 『は、はい!』  訳が分からず慌ててトイレへ駆け込んだ。ブラジャーの締め付けが苦しくて仕方ない。しかもホックが背中に食い込んで中々外れないのだ。  やばい。もう始業時間だ。私のアラを探してる敵にネタを提供したくないわ!  やむを得ない。  ポケットから事務用カッターナイフを取り出し、ブラジャーを引き千切った。すると……。 『ええっ!?』  その露わになった胸を見て愕然とする。  なに、このおっぱい。  私の貧弱な胸じゃない。 『あら~、〝わたくし化〟がこんなところに現れたんだね。次はウエストのくびれとお尻かしらね~』 『こ、これはどういう現象なのですか?』 『言ったでしょう。この身体の主人はわたくしだって。ようやく魂が肉体に馴染み始めたってことよ』 『で、ではこの御立派な胸は』 『ええ。わたくし巨乳だから』  待って、私が私では無くなっていくってこと?  ララ様の肉体と自我に変態していくの?  そんなのヤダぁ!! 『おっきな胸になって嬉しいでしょう!』  いえ、嬉しくありません。私、別に巨乳とかいらないんですけど。
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