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5. こんな素敵な男性だったとは!
これからはララ様の下着を身につけるのか……。
違和感しかない。でも致し方無しだ。新しく下着を買う余裕はないから。
なので彼女の自宅ヘ向かっている。
今日は一日中ノーブラで過ごしてヒヤヒヤもんだった。歩くたびにこれ見よがしに揺れまくる胸は、何か別の生き物を飼ってるみたいだ。
私の〝ララ化〟は何処が終着点なのだろう?
『この肉体に馴染んで何となく分かってきたわ』
『ララ様、心を勝手に読まないでください』
『大事なことだからね。でも、身体の主人はわたくしに変わりないけど、自我は花のままの様ね。思ったより脳神経細胞の遺伝子が頑固で強いみたい』
『えっ、そうなのですか? では〝綾坂花〟として今後も生きていけると?』
『多分ね。だけど美しい肉体や顔付きの半分以上はわたくしに似てくるわ。良かったわねー』
それは嫌味ですか? まぁ、貴女のご尊顔をまだ拝見してないですけど。
『美しく変貌を遂げたら絵梨花に仕返ししましょ』
『えっ……いやそれは……ど、どうやって?』
『美しいのは武器よ。ま、わたくしに任せなさい』
『は、はあ』
頼もしくもあり不安でもある心境だ。でも、ちょっぴり嬉しくも思う。誰かが味方になってくれるのは勇気が出るというもの。決して孤独ではない。
それに私は外見こそ変態していくが中身までは変わらない様だ。意識の中でもう一つの意識が大きく存在してるけどーー。
『ところで先程連絡した弟様ってあの御方ですか?』
好青年がララ様のお住まいと思われる高層マンションの前で立っていた。でも周りが物々しい。パトカーが並んでるし、警官が出入りして異様な雰囲気を漂わせている。
『やっぱ入れないかな……』
『あ、あの、これは一体?』
『実はわたくし、殺されたんだよねー』
『ええーーっ!?』
ま、まぁ死んだのは確かだけど殺されたって? 私はてっきり事故か病気かなって想像してたから。で、で……何で殺されるの???
『あ、あの、これからララ様の友人と称して弟様にお会いするので、もう少し情報を入れてください』
彼を前にして立ち止まってしまった。単に部屋を開けてもらって下着を持って帰るお使いでは済まない気がするのだ。
『わたくしは風俗嬢。箱ヘルのね。ランカーだったから多くの太客がいたけど、特にしつこかった男に殺されたんだ、接客中に。だからこのマンションは殺人現場ではないの。ちなみに弟は詳しく知らないから。ーー以上、健闘を祈る』
いやいや待って。専門用語があって処理しきれない。箱ヘルって何だ? ランカーとは?
その場で固まってしまった私に弟様が怪訝そうな素振りで歩み寄って来た。もう待ったなしです。
「あのー、綾坂さんですか?」
「は、はい。綾坂花です」
間近で見ると目鼻立ちの整った超美形の男性だ。まさに眉目秀麗。そして何よりもスラーっとした身長に程よく鍛えられた筋肉が、ワイシャツから薄らと浮き上がりセクシーさを感じさせる。
私は人生において、これほどの美しい御方と接したことはない。
「えっと……この度はお悔やみ申し上げます」
ぺこりと頭を下げた。彼も一礼した後に何故か私の顔を凝視する。こんな美男子に見つめられると戸惑います。
「もしかして外注課の……あ、失礼。勤め先で同姓同名の人がいるから、つい」
はい? 会社の? 貴方のこと存じませんよ?
「外注課の綾坂は私でございますが?」
「ああー、やっぱりそうなんだ。メールのやり取りしてる生産管理部の伊集院翔です」
あ……。
そのお名前、覚えがある。業務用メールで事務的なものだけど、最近よくやり取りしてるわ。それがこんな素敵な男性だったとは!
運命の出逢いが訪れたのかもしれない。私は柄にもなく、そう期待してしまったのだ。
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