チョコレートの返礼

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チョコレートの返礼

「……やばい」  朝、テオは自室のカレンダーを見て呟いた。  今日は3月14日。『クッキーデー』と呼ばれる記念日だ。  女性から男性へ、チョコレートと共に愛を伝える2月14日の『ショコラデー』。その礼として男性から女性へクッキーと告白の返事を返す3月14日の『クッキーデー』。遥か昔の貴族夫妻が由来らしい、グランディオルの伝統的なイベントだ。  昔は本当に愛する1人のみと交換し合っていたらしいが、最近では恋愛感情を持たない知り合いに日頃の感謝を込めて配る『義理チョコ』『友チョコ』という文化もあり、テオも近所の女友達数名から義理と思われるチョコレートを貰った。もちろん、エレンからもだ。  つまり人数分のクッキーを礼儀として返さなくてはいけないのだが、その準備をすっかり忘れていたのだ。  テオは部屋を出て、大衆食堂である1階へ降りた。開店前の店では父親が鼻歌を歌いながら手作りクッキーを焼いている。 「親父」 「おはよう〜♪」  テオが声をかけると、アランは作業しながらご機嫌で挨拶をしてきた。テオは気まずそうに頬をかく。 「あのさ……そのクッキー余ってない?」
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