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そう、あの時はなかなか就職が決まらなくて焦っていた。周りは内定をもらったと喜ぶ中、届くのは不採用の通知ばかり。
そんな中での学園祭。気分転換に打ち上げまで参加をした。
あの人が私をからかうのはいつものこと。でもその距離感が特別な感じがしていた。だからお酒を勧められた時も、つい言われるがまま飲んでしまったのだ。
しかしその時のお酒がアルコール度数の高いもので、キス魔になる前に倒れてしまった。
机に突っ伏していると、誰かが私の頭を撫でていることに気付く。ふと視線を上げると、一年生の茂松くんだった。
『先輩、どうして飲んだの? ソフトドリンクにしておけば良かったのに』
『……』
『俺は先輩が誰かにキスするところなんて見たくないですよ』
『……うるさいなぁ』
『でもあそこで、先輩が誰かにキスするのを今か今かと待っている人がいますよ。なんか腹立つな』
『もう……! そんなこと言ってると、茂松くんにキスしちゃうんだからね……!』
『いいですよ。キスしてください。俺、先輩とならキスがしたい』
『はあっ⁈ つ、付き合ってない男女がそんなこといけません!』
『自分から言ったんじゃないですか。じゃあ俺と付き合って。それからキスしましょう』
『……』
『返事なしですか。ねぇ先輩。俺は昔からラッキーボーイって言われるくらい、運がいいんです。キスしてくれたら就職が決まるかもしれませんよ』
その時の私には"就職"はキラーワードだった。欲しくて仕方なかった"内定"の二文字。キスするだけで内定がもらえるの?
『……それって本当?』
『もちろん、本当です』
『絶対? 命をかける?』
『絶対です。俺の人生をかけますよ。だから……もし俺のキスのおかげで内定がもらえたら、俺と付き合ってくれますか?』
『……いいよ』
答えるなり、利麻はムクッと起き上がると、一成を力いっぱい畳に押し倒す。それから彼の上に跨ると、思い切り唇を押しつけた。一成は驚いたように手足をバタつかせるが、利麻は息が続く限り彼にキスをし続ける。
『り、利麻ちゃん⁈ ちょっと! 何やってるの⁈』
『茂松! 大丈夫か?』
その様子に気付いた仲間たちが慌てて二人の元に駆け寄る。
唇を離した利麻は再びぶっ倒れ、一成は真っ赤になったまま微動だにもしなかった。
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