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「……わかんないよ。私付き合ったことないもん……」
すると今度は一成が黙ってしまう。それから表情を緩ませた。
「マジで?」
「……悪い?」
「悪いどころか、むしろ最高」
「はぁっ?」
「ってことは、先輩の初めてのキスも、初めての彼氏も、これから起きること全部、俺が初めてってことでしょ?」
「ま、まだ付き合うなんて言ってないからね!」
「……先輩さ、肝心なこと忘れてない? たとえ偶然だったとしても、内定をもらったのは事実。俺と付き合うって約束、ちゃんと果たしてもらわないとね」
一成はニヤッと笑う。
「本当は先輩のこと、ずっと気になってた。あの時ちゃんと付き合ってたらどうなったのかなってさ。でも会いたいと思うと会えないんだよ。仕事って頭で来たら先輩を見つけられた。欲は出しちゃいけないね。でも俺ってやっぱりラッキーなのかも」
付き合うってそんな簡単に考えちゃっていいの? 困惑している利麻の髪を、一成はそっと撫でる。
「先輩、ノーとは言わせるつもりはないけど、一応聞くよ。返事は?」
おかしいな……茂松くんってこんな人だったっけ。前から大人っぽい子だとは思っていたけど、こんなに頼りになる感じの人だった?
「……それならちゃんとリードしてよ。付き合うってわかんないから……」
一成は嬉しそうに微笑む。
「あの時キスしておいて良かったって思わせるからさ、覚悟しててよ」
利麻は胸が高鳴る。もう既にドキドキし始めてる。じっと見つめられてから再び唇を塞がれ、うっとりと目を閉じる。
あの時は酔っていて、初めてのキスは苦い思い出の味がした。
だけど今は、どうやら初めての彼氏になるらしい人からの甘いキスに酔わされている。
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