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「俺だってこと、気付いてたよね?」
「な、なんで……!」
「わかりやすいなぁ、先輩は」
「なっ……! っていうか手を離して!」
「別にいいじゃない、このまま話そうよ。先輩には言いたいことがたくさんあるし」
「はぁ? 話すって何を……」
利麻は明らかに挙動不審だった。でも彼から逃げ続けた利麻は、どうしたらいいのかわからなかったのだ。
一成は利麻の手を掴んだまま隣に座ると、ショーケースに寄りかかる。
「逃げないでよ。先輩、いつも俺から逃げてたよね」
「だ、だって……酔った勢いとはいえ、君のファーストキスを奪ってしまうなんて大失態をしちゃったから……もう私の顔なんか見たくないだろうなと思って……」
「何それ。そんな理由で逃げ回ってたの? 俺そんなこと言った?」
「……言ってないけど、先輩として有るまじき行為でしょ……?」
「先輩だってファーストキスだったって聞いたよ。あんなキス魔なのに、口ではしたことないって笑える」
「わ、笑えばいいでしょ。こっちは結構必死だったんだから……もういいよ、今日は閉店の時刻だから帰って……」
彼の手を振り解こうとしたその時、反対の手で頭を引き寄せられ唇を塞がれた。利麻は驚き、目を見開くと硬直した。
唇が離れると、一成はいたずらっぽく笑う。
「これでおあいこ。話聞いてくれる?」
「おあいこって何……? なんでキスするの……?」
「さぁ、なんででしょう? それにこうしないといつまでもグチグチ言い訳するでしょ? 一回黙らせたかったし」
まるで私がうるさいみたいじゃない。それなら彼の希望通り黙ってやるわよ。
利麻はプイッと顔を背けると、膝を抱えて座った。
「あの飲み会の時のこと、覚えてる? 先輩さ、ずっと飲まないようにしていたのに、あの人に言われた時だけはさ、嫌々ながらも飲んだよね」
「だってそれは……」
「あの人のことが好きだったんだよね。だから言うこと聞いたんだろ?」
「……悪い?」
「あぁ、すごく悪い」
「はぁっ⁈ なんで茂松くんにそんなこと言われなきゃいけないの? 私たち、そんなに仲良かったわけじゃないよね」
すると一成が利麻の目をじっと見つめた。
「でも先輩のことが好きだった」
利麻は瞬きをするのも忘れて固まった。
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