143人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ……ちょ、ちょっと待ってよ……」
「俺、あいつが『柳田に酒を飲ませよう。キス魔になったところを後輩たちに見せれば面白い』って言ってるのを聞いたんだ」
「何それ……」
「俺はそれが許せなかったんだ。だけど先輩、本当は気付いたよね? あいつの性格。なのに言うことを聞いてお酒を飲んでるから、すごく悔しかった」
一成は利麻の頬に手を当てると、自分の方へ向ける。先ほどのことで警戒していた利麻は、慌てて口元を手で押さえた。
「じゃあここで問題。ねぇ先輩、あの時に何があったか覚えてない?」
「……わからないよ。だって酔ってて記憶がないんだもん」
利麻は怪訝そうな顔で一成を見つめる。しかし彼は表情を変えず、利麻の反応を楽しんでいるようだった。
その様子にイラッとした利麻は、力ずくで彼の手を振り払うと、立ち上がり店のドアを開ける。
「言ったよね。今日は閉店です。何も言うつもりがないならもうお帰りください」
一成を外に促すように話しかける。しかし彼もそんなことで引こうとはしない。ショーケースの前に座ったままプイッと顔を背けた。
「ちゃんと答えてくれないと帰らないよ」
「はぁ? 私はわからないって言った……」
「俺、あの時一応告白したんだけど」
「で、でも……昔のことじゃない」
「今もって言ったら信じる?」
「信じません。ほら、早く帰って……」
そう言いかけた時、座ったまま利麻を見上げている一成の視線に、何か懐かしいものを感じる。
最初のコメントを投稿しよう!