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あれは大学一年生のサークルの飲み会の時だった。ソフトドリンクと間違えてお酒を飲んでしまった私は大失態をやらかしたのだ。
酔った勢いで先輩方(女)の頬にキスをしまくったらしい。ただ女の先輩だけに留まったのは、私が女子校出身だからだろう。あの頃は男性に対して不信感しかなかったから。
それまでお酒を口にしたことはなかったし、自分にそんな面があるなんて知らなかった。
おかげで自分の欠点が見つかったわけで、『お酒は飲んでも飲まれるな』をモットーに、飲み会でもソフトドリンクでやり過ごすようにしていた。
でもそれがバレてしまうと、「お酒の席で飲まないのは良くない」とよくわからないことを言われて飲まされてしまうこともあり、そのたびに『キス魔・柳田利麻の降臨』とからかわれた。
それから月日が流れ、とうとう運命のあの日がやってくる。
あれは大学四年の秋。学園祭の打ち上げでのことだった。好きだった人に勧められて飲んだものが、アルコール度数の高いカクテルだと気付いたのは翌日のことだった。
頭がガンガンする中、電話をかけて来た友人がこう言ったのだ。
『利麻ちゃん、とうとうやっちゃったね』
「……なんのこと?」
『あんだけベロベロだったから覚えてないよねぇ』
「……私また何かやらかしたの?」
『今までで一番最悪かも。なんと一年生男子の唇を奪っちゃったんだよ』
「嘘……」
目の前が真っ暗になった。
「あの……私は誰にキスしちゃったの?」
『聞いて驚く勿れ。茂松一成くんだ。終わったね、利麻ちゃん』
茂松一成……あのやけに落ち着いた感じの一年生。同じサークルだし何度も話したことはあるけど、私より大人な雰囲気の子だった。
「唇にキスしちゃうなんて初めてだよ……しかも私のファーストキスなのに……」
『あれだけほっぺにチューしまくりな人が何言ってるのよ。まぁ今度会ったら謝った方がいいよ。茂松くんも放心状態だったから』
そんなことを言われたものだから、私はすぐに茂松くんに謝った。すると彼は困ったように下を向くと、これまた予想外の言葉を言い放った。
「俺……ファーストキスだったんですよね……」
その瞬間、私の血の気が引いた。なんてことをしてしまったんだろう……。彼の大事なファーストキスを私が酔った勢いで奪ってしまったなんて……。
「ご……ごめんなさい……本当にごめんなさ〜い!」
「えっ、あっ、違うんです! あのっ、約束のことって……!」
彼が私を呼び止める声が聞こえた。でもそれを振り切り私は逃げ出したのだ。
きっと彼を傷つけてしまった。酔っていたとはいえ、なんてことをしてしまったんだろう。
あれからすぐに就職も決まり、学校に行くのは週に一回程度。私はサークルを辞め、彼の視界に入らないように徹底して気をつけた。
気まずいし、何より彼を不快な気分にさせてはいけない。なるべく会わないようにしないと……。
私は彼と顔を合わすことなく無事に大学を卒業すると、苦い苦い思い出を封印するように、大学の関わりを全て絶ったのだ。
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