歩く

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歩く

 自分の家を避けるためにぐるっと遠回りをした。こっちゃんは前屈みになって歩いて、腕の中の子猫を七月の日差しから守っている。私はその半歩だけ前を歩いた。横目でこっちゃんと子猫を見れるように、一人と一匹を案内できるように。滴る汗をそのままに私たちは黙々と歩いた。    またドキドキしている。暑いから?悪いことしてるから?不安だから?怖いから?それとも、ちょっとした冒険みたいで楽しくて…?考えているうちに考えていることを忘れていた。  ところどころ剥がれた瓦屋根の家。黒灰色の塀の上から枝葉が伸びて、私達の頭の上まで覆っている。門にはくすんだ『猫田』の文字。飛び石が見えなくなるほど雑草が我が物顔で生い茂る。比較的新しい今風な家が立ち並ぶ住宅街で、そこは明らかに異質だった。  私のドキドキの色が変わったような気がした。
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