化け物

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化け物

「入れ!」 警察官の怒号が響いた。僕は留置場に放り込まれ、鍵を閉められた。とその時、左胸を殴られたかのような衝撃を受けた。部屋全体を占領するぐらいの大きさの、真っ黒で巨大な化け物が部屋に居たのだ。あり得ない! こんな生物は地球上のモノでは無いと確信し、あまりの恐怖に叫ぶ。 「うわ~!」 とにかく、ここに居れば殺されると感じた僕は即座に(きびす)を返し、鍵を閉められたばかりのドアをガチャガチャとゆすって叫ぶ。 「出してくれ~!」 「静かにしろ!」 警官はマニュアル通りの冷たい対応で一喝した。当たり前だ、出してくれと言われたからと言って出す訳が無い。警察官に化け物の姿は見えていないという事だろう。 「化け物が居るんだ! 一旦出してくれ!」 警官は俺を見てくれもしなくなった。気がおかしくなったと思ったのか、出してもらう為の演技だと思ったのかは分からないけど、相手にしないと決めているように見えた。 僕は諦めて恐る恐る振り向き、化け物と再び正対した。何という巨大な身体……。身長5メートルはあるかという真っ黒な身体で見下ろしながら、僕を覆うように胡座(あぐら)をかいている。死んだ人間と烏が合体して巨大化したような見た目で、身体の一部が腐っているかのようにドロドロになっているが、臭いは全くしない。 僕は速くなった鼓動を落ち着かせようとしたけど無理だった。恐怖でガタガタ震えながら質問する。 「あ、あの……どなたですか?」 『お前は今から死ぬんだ』 「えっ?! 結婚詐欺で死刑にはならないでしょう?」 僕は自分でもおかしな事を言っているような気がしたけど、気が動転してよく分からない。化け物は全く動じず続けて話す。 『だから俺が殺してやるんだよ』 「そ、そんな……」 『安心しろ。何らかの虫に生まれ変わらせてやるよ。好きな虫を選びな。セミか? ゴキブリか?』 化け物は口が裂ける程ニヤリと口角を上げ、気持ちの悪い笑みを浮かべながら言った。僕は理解した、この化け物は悪魔なのだと……。夢なんかでは無い。数多(あまた)の女性達から金銭を巻き上げ、遊び尽くした罰を受けるのだと覚悟した。だけど、そんな状況下で妙案を思い付いた。 「ね、猫だけはやめてくれ! 猫は大嫌いなんだ」 僕は両手を合わせ、祈るように(ひざまづ)いて懇願した。 『なるほど。では望みを叶えてやろう。お前の来世は猫に決定だ!』 「やめてくれ~!」 『今の記憶も少しだけ残してやろう。猫になった時の楽しみが増えるだろう?』 僕は、悪魔の嬉しそうな顔を見ながら苦悶の表情をして叫んだ。だけど、心の中では、ほくそ笑んでいた。こうなった以上、殺されるのは仕方無いけど、ゴキブリになるなんて想像するだけで吐き気がする。でも、猫なら人間に可愛がられるし、最悪の事態は避けられるだろう。僕は人間の女性のみならず、悪魔までも騙しきったのだ。 こうなったからには猫として、第2の人生を楽しんでやる! 了
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