待てばカイロの日和あり

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 カイロは一人でお風呂に入ることにきめた。2年生の秋のことだった。  カイロのいえのお風呂は寒い。それに、ともだちのいえよりも古いみたいだった。というのは、シャワーをだすのに「レバーをがくんとたおす」と言って誰にもつたわらなかったから知った。  ともだちのマンションのお風呂には窓がないらしい、というのもそのときに知った。それならきっとカイロのいえの風呂場のように寒くないだろうし、道を行くひとの話し声にどきどきしなくていいだろうから、少しうらやましいな、と思った。でも、シャワーのがくんがつたわらなかったところで、カイロは話に取り残されてしまったから、黙っていた。  そんなことを思い出しながら、はじめて一人で風呂場に立った。先にあがったおかあさんと、弟のリクロの、シャンプーのにおいが残っていた。  弟のリクロはまだ小さいから、おかあさんと入っている。おかあさんはおなかが大きいので、こども二人と入るのはしんどいと言う。だからカイロは昨日までおとうさんと入っていた。  おとうさんはカイロをいつも脚の間にはさんで、泡で出るボディソープで髪の毛から体まで全部いっしょくたにして洗う。せっかくおかあさんが、はちみつの瓶のかたちをした素敵なシャンプーを買ってきてくれたのに。文句をいうと「ごめんごめん」というけれど、いつも忘れてボディソープであらう。  カイロの髪の毛はきしきしになる。絡まるから、エルサみたいに長くするまえに切ることになる。  髪の毛がきしきしになるのも、脚の間にはさまれて背中にふやふやしたちんちんが当たるのも、同じ線上にある気がした。それが、シャワーのがくんの件で全部いやになって、カイロは一人で入ると宣言した。  おとうさんは「いよいよか」と笑って、おかあさんは「あ、動いた」とうれしそうに丸くふくらんだお腹をなでた。
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