待てばカイロの日和あり

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 私はかたくて冷たい灰色の底に横たわっていました。もうからだは動かなくて、もれた吐息と一緒に気泡が浮かんでいきました。  そのときに、大きなあみが私と、一緒に沈んだすてきなひとを、(すく)いあげました。ほとんど死んでいた私ですが、上にあがるときに、いつでも柔らかに私を包むだけだった水が、重くのしかかってくるのには参りました。  それ以上に参ったのは、初めて水から上げられたときに、全身がひりひりと痛んだことです。白くて短い、そしてかたい、そんな水草がみっしり生えたようなところに、私は転がされました。その時もずっと痛かった。でも、だんだんと痛みと私は一つになっていって、完全に合わさりそうになったところで、光がまたたきました。それは外からくるものでもあり、私自身でもあり、恍惚のなかで私は私から離れて、世界になりました。  ひからびた私は運ばれて、土に埋められました。土の中はひんやりとしていて、わずかに水の気配がありました。それがとても懐かしい。  私と、生まれなかった私の子どもたちは、ミミズになり、ツバメになり、テングザルになり、ダニになり、キングサーモンになり、シラカバになり、カブトムシになり、その他様々なものになり、それからまた、ひんやりとした土に戻るでしょう。  ヒトになることも、あるかもしれません。
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