誰の目にも輝きを

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 弥伊子は髪型が崩れないように、汗をかかないように、早歩きでずんずんと学校へ向かった。寄り道していく芦屋恭子とは途中で別れた。家によるとか、そんな話ではなく、買い食いの寄り道だ。弥伊子は芦屋恭子がかなりの変わり者らしいことを理解し始めていた。弥伊子が学校につく頃には三時間目の授業が始まっていた。正門は閉まっていたし、グラウンドで授業中の生徒からは興味津々といった視線を受けた。教室につくと中から授業中の声が聞こえ、入ることがかなりためらわれた。肩にかけた鞄を再度肩にかけ直し、勇気を振り絞って、そろっと引戸を開けた。背を屈め、こっそり入り込んだつもりだったが、視線を上げると引戸の音で全員が振り向いていたらしく、全員と目があった。 「おなか、痛くて、遅刻しちゃいました」 弥伊子の背に冷たい汗が流れた。教室に一泊の沈黙。 「お前その髪、メイク、どういうつもりだ」 ああ、なんて運の悪い、相性の悪い英語教師がこちらを睨んでいた。教室内は一気にどよめき始めた。「おまえ、、」英語教師が教壇から弥伊子のいる教室後方へにじりよってくる。弥伊子は「ああ」と、心の中で考えた。これから自分はどうなるのだろう。これから自分は叱られてメイクを落とされて、髪も洗う羽目になるだろう。お母さんが学校に呼ばれたりするのだろうか。それは嫌だな。その時弥伊子は気づいた。「このまま捕まったら、獅童宰都にメイクした姿を見せられない」そう気づいたあと、弥伊子は荷物をその場に落として逃げ出した「おい、こら」教師の怒号が聞こえた。それでも弥伊子は止まらない。なんのために、自分は。弥伊子は廊下を走った。よかった獅童宰都のクラスも教室で授業中だ。弥伊子は思いきって引戸を開けた。クラスの面々がこちらを向いていた。昨日の巻き髪の女子生徒も視界に入った。けれど大切なのは、見つけた。獅童宰都は席についていた。視線はこちらに向いている。弥伊子は廊下を走る音を聞いて追われていることを思いだした。弥伊子は獅童宰都へずんずんと歩みを進めた。 「獅童宰都くん、私、私は」 「え、と。はじめまして」 獅童宰都の口からでた言葉に弥伊子は膝から崩れ落ちそうになった。獅童宰都にとって、自分は。「見つけたぞ」弥伊子はその声に振り向いた。そこには英語教師の姿があった。まずい、このままでは。 「おはようございます!」 教室前方の引戸を開けて芦屋恭子が教室に入ってきた。芦屋恭子は弥伊子と目があったのち、英語教師と目があった。 「あり、やべ」 「またお前の仕業か」 「先生さようなら」 芦屋恭子は引戸を閉めて駆け出した。 「あ、こら」 英語教師が芦屋恭子を追って廊下にでていった。 「また、あいつは」 獅童宰都がそちらを追って教壇へ、教壇には一連の騒ぎに言葉を失い立ち尽くす古典の教師がいた。 「先生すいません、ちょっと行ってきます」 そう言った獅童宰都は廊下へでていった。 「また、獅童が芦屋を助けに行ったのか」 「ほら、あいつらって」 そんな声が口々に聞こえてきた。弥伊子は途端に自分が怖くなった。頭のなかがぐるぐるとして、パニックになっていることを自覚した。弥伊子は夢中で教室から飛び出て、そのまま学校の外まで止まらず走り抜けた。
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