誰の目にも輝きを

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「おはよう弥伊子」 朝の通学で最初の駅から一緒に通学している加藤真澄が話しかけてきた。 「おはよう真澄」 「なに、暗いじゃん?」 「別に、普段通りだよ」 弥伊子は朝早くからメイクに取りかかったものの、昨日のそれを再現するどころか、普段以上のメイクに違和感しか感じず、諦めて普段通りにメイクし直していた。 「いい加減、図書館の君は諦めたら?」 真澄は勘違いをしているらしい。 「だから、落ち込んでないって」 弥伊子は無理矢理な笑顔を真澄に見せつけるとホームに入り込んできた電車の開いた扉から車両へ飛び乗った。ついてくる真澄を放置してすぐ脇の座席に勢いそのまま座り込んだ。 「あらあら、元気ですこと」 真澄はわざとゆっくり弥伊子の隣へ腰かけた。 「芦屋恭子って知ってる?」 「え、そりゃまあ、有名でしょう」 「え、あ、そうなの」 「まあ、あんたは図書館の君に夢中で世間から距離を置いてたから知らなかったのでしょうけど、正直二ヶ月くらい前から話題の中心ですよ」 「そう、だったっけ?」 「ほら、演劇部で問題起こして退部して」 「ああ、その人」 「その後、放課後を活用して、女生徒に有料でメイクしてまわってるってね」 「ああ」 弥伊子は昨日の芦屋恭子を匿った吹奏楽部部員らを思い出した。皆、あんな体験をさせてもらっていたのだろうか。 「勝負の日は芦屋を探せって話しなかったっけ?」 「ん?」 「あーもー、あんたも人の話を右から左へ聞き流してたわけですか。私は悲しいよ」 「ごめんって」 「おはよう、南洞さん。と、加藤さん」 「おはよう藤田くん」 隣駅から乗り込んできた藤田飛鳥は可愛げのある美少年だが、いかんせんなよなよしすぎてイマイチモテないくんだ。真澄は声掛けが後回しにされたことに機嫌を悪くして鼻をならした。 「藤田は、まったくいつもいつも」 「すいません」 藤田は平謝りしてから加藤の隣へ腰かけた。 「南洞さん、何かあった?」 藤田飛鳥が真澄をかわして弥伊子に視線を向けてくる。真澄はわざとその邪魔をしに体を動かしている。 「もう、藤田くんまで」 「芦屋恭子となんかあったらしいよ」 「え、芦屋さんと?」 「そういや、藤田、演劇部じゃん」 「まあ、そうだけど、その僕は芦屋さんにあまりいい思い出がなくて、、」 「まあ、性格合わなそうだよね」 真澄が藤田飛鳥のあたまをわしわしと片手で揺さぶった。 「やめて、加藤さん」 藤田は弱々しく真澄の手をどける。 「でも、南洞さんと芦屋さんて接点あったんですね」 「ないよ、接点。始めて会った」 弥伊子はそう言いながら、初対面の相手に強引に関わってきた芦屋恭子に改めて驚きと、違う世界の人だ、という線引きたくなる気持ちに襲われた。
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