誰の目にも輝きを

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「芦屋恭子を探す?」 お昼の時間、弥伊子は加藤真澄と藤田飛鳥とともにお弁当を食べていた。お弁当は弥伊子が作っている。弥伊子の母の分も作っている。弥伊子が中学生のころからそうしていた。いつの間にかそうなっていた気がする。弥伊子なりに一人親の母を助けたい気持ちからだった。 「演劇部には顔を出すの?」 弥伊子は藤田飛鳥に聞いた。 「いや、たまに見かけるけど、ほとんど来ないよ、、」 「そう、なんだ」 「なになに弥伊子もメイクに取りつかれって、あれもしかして、」 何かを気づいたらしい真澄を弥伊子は視線で制する。 「というか、会いたいなら教室に行ったらいいじゃない」 「え、真澄、芦屋恭子がどの学年かもわかるの?」 「どのって同じ学年でしょ」 「うそ、」 弥伊子はなんとなく芦屋恭子は上の学年だと思い込んでいた。大人びて見えた。あれもメイクによるものなのだろうか。 「あ、そうそう、朝の獅童くんと同じクラスだよ」 「え、そうなの?」 弥伊子は休み時間を思い出す。あのときもどこかに芦屋恭子がいたのだろうか。なんとなく引け目を感じてしまった、あの巻きの子も芦屋恭子にメイクされたのだろうか。弥伊子は思いに耽りながら、お弁当の卵焼きを口にした。  放課後の教室に弥伊子はまだ残っていた。真澄は先に帰った。藤田飛鳥は部活だ。真澄は「また図書室に行くの?」と問われたが、うやむやに答えた。今日会いたいのは獅童宰都ではなかった。彼にはまだ会えない。会う自信がない。弥伊子は変わりたかった。芦屋恭子は獅童宰都と同じ教室だ。運が悪いと獅童宰都と出くわしてしまう。今の自分は彼に見せたくはなかった。獅童宰都は部活にも入れずに家庭の用事に駆り出されるらしかった。そろそろ帰っているはずだ。逆に芦屋恭子はまだ学校に残っているのだろうか。昨日の感じから考えれば、彼女はメイクの練習台を探してまだ校内をうろうろしているはずだ。弥伊子は荷物を手に立ち上がった。芦屋恭子に会わなくてはならない。
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