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――――それからしばらくして、クラシャスが目を覚ました。
「クラシャスさん、何か食べられそうですか?」
寝起きからすぐに食事をする人なら空腹になっていると思ったので、アーレはすぐに確認をした。
「そうだな。ここに来るまでしばらく食べていなかったから空腹も通り過ぎた感じだが、寝る前にアーレが置いといてくれたものを口にしたから、幾分良さそうだ。食べ始めれば普通に食えそうではあるな」
「しばらくって、どのくらい前から食べていなかったんですか?それなら、もっと早く支度をすれば良かったですね。ごめんなさい」
ケガのことばかりに気が行ってしまい、大事なことの確認をしなかったことに、アーレは申し訳なく感じて耳がシュンと折れてしまった。
「何故謝る?寝る時に食べるものを置いてくれたろ?美味かった。それに、身も知らない俺に色々世話をしてくれている。頭を下げるのは俺の方だ。ありがとう」
「頭を上げて下さい。な、何か恥ずかしいです。す、すぐに食事を持って来ますね」
クラシャスの1つ1つの動きがアーレの心臓をいつもよりも速く動かす。顔を赤くして、慌てて台所へ行った。
クラシャスも同じだった。川でアーレを見た時から自分の心臓がいつもと違う。戦いの中での緊張した時とも違う。それを表に出さないようにクラシャスもまた、今の自分に戸惑っていた。
――――恥ずかしさを落ち着かせながら食事の支度をしたアーレは、クラシャスのいる部屋に戻った。ドアの前で大きく深呼吸をしてから入る。
「お待たせしました。本当はもっと濃いものとかが良かったのかもしれないけど、ケガをしているし、しばらく食べていなかったみたいなので。今はこれで我慢して下さいね」
トレーごとテーブルに置く。
アーレが作って来たのはミルク粥だった。そこにチャイブを散らす。
「熱いのでゆっくり食べて下さい」
「ありがとう。美味そうだ。頂きます」
クラシャスはスプーンの上のミルク粥を冷ましながら口に運んだ。
「優しい味だ。身体に沁みるっていうのは、こういうことなんだろうな。美味い」
「良かったです。このまま元気になるまでいて下さいね。食べるものも、好きなものや苦手なものを教えて下さい」
「ああ。ありがとう」
クラシャスが喜んでくれるとアーレも嬉しい。『ありがとう』なんて毎日来てくれる人たちで聞き慣れているはずなのに、どうしてこんなにも変わるのか。クラシャスが話す1つ1つの言葉がアーレには宝物のように感じた。
〈どうしてかな〉
宝物のように感じるのと、それが何なのかの不思議さが胸の中でいっぱいになった。
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