B面:後輩ちゃんサイド

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B面:後輩ちゃんサイド

(味の薄い桃ゼリー…  どんな例えよ…) 部長の言葉のセンスの無さに呆れながら 私はメモ帳を取り出す 『味の薄いワカメみたいな味』 『しばらく干していて  まだちょっと湿っている水着みたいな味』 『タレをつけていないたまご豆腐みたいな味』 といった独特な表現達の下に さっきの感想を走り書きする (もう そろそろ やめようかな?  部長も何か おかしい って思い始めているし…) そう思ったけど キスをした時の感覚を不意に思い出してしまい 私は顔が紅潮し熱くなっていくのを感じた (…いや  もうちょっとだけ…  続けてみようかな?) そう思って そっと自分の唇に触れる (もしかしたら…  いつか本当に  『甘酸っぱい味』にたどり着けるかも知れないし…  おっと  そろそろ『戻さないと(・・・・・)』) そう言って私は 腕時計を反時計回りに 5回ほど回す すると世界の全てが逆再生し 部長とキスをする前の時間に戻った しかし部長は 先程のキスの事は覚えていない(・・・・・・・・・・・・・・) 覚えているのは私だけだ(・・・・・・・・・・・) 私が作った この腕時計は 『時を戻せるタイムマシン』なのだ といっても10秒程度しか戻せないが あのファーストキスを 何度でも味わうことが出来るのなら このくらいで十分だ 私は部長を見る 寝癖のついた頭 よくズレる黒縁メガネ 絆創膏だらけの顔とか手 ドジで おっちょこちょいで 鈍感で 言葉のセンスもない でも そんな彼に私は 何故か惹かれてしまうのだ 本当の思いを伝えるのは もう少し先でもいい 今は この秘密のファーストキスと 先輩の反応を楽しんでいたいから そうして私は 先輩に あの質問をする 「部長  『ファーストキスの味が甘酸っぱい』っていうのは  本当なんでしょうか?」―
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