俺様は猫である

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◇◇◇ 「えっと、ドッキリ、とか何かですかね……? もしくは夢ですか?」 喋る猫を前に、わたしは正座をしたまま恐る恐る尋ねてみた。とにかく青天の霹靂すぎて、頭が追いつかない。猫が喋るだなんて、生まれてこのかた聞いたことがないんだから。 「ドッキリでも、夢でもない。正真正銘の現実だ。自分の頬でもつねってみろ。痛いだろ?」 わたしのソファに鎮座する猫様に言われた通り頬をつねってみると、痛い。 「た、確かに……」 「ふん。まったく、飲み込みの遅い頭だな」 猫様はそう言って涼しげな蒼い瞳を向け、わたしを見つめてくる。だけど、ちょっと待ってほしい。わたしの反応は至って普通の反応だと思う。 「だ、だって猫が喋るなんて……そんなのびっくりするに決まってるじゃないですか! 世界中探しても、そんな猫いないですよ!」 けれど、その言葉にも一刀両断。 「いるだろ、ここに」 わたしの言葉に、さも何でもないことのように返してくる猫様。どうして、そんなに堂々としているのか不思議でならない。むしろ、お前の方がおかしいだろ?みたいな調子で言ってくるので、わたしはただただ恐縮するしかなかった。 昨日は弱々しい姿だったはずなのに、一晩経ったらこの変わり様。喋ることにも驚いたけど、何よりその超俺様な態度には開いた口が塞がらない。猫なのに威圧感が半端なくて、気づけば自然と敬語を使っているほどだ。 「普通の猫じゃないんですよね。もしかして、どこかの研究施設から逃げ出してきたんですか? それとも異世界の住人とか」 とにかく、この状況を説明して欲しくて尋ねてみると、猫様に「何だと思う?」と逆に質問された。 艶やかな黒い毛に、深い蒼色の瞳。しなやかな体つきで、気品溢れるその姿は、貴族のような出立ちをしている。これは、もしや──。 「……の、呪いをかけられて猫になった王子様とか?」 へらりと笑いながら、おとぎ話にありがちなシチュエーションを挙げてみた。すると、また鼻で笑ってくる猫様。 「見た目通り頭の中もお花畑だな。呪いなんて聞いたことないぞ」 「いやいや、喋る猫もたいがいですからね⁈」 さらりと毒を吐かれたことに、とっさに言い返してしまった。だって、喋る猫とか。実はわたし、とんでもない世紀の大発見しちゃったんじゃないかな。 「俺様は顔とスタイルと声と身のこなしと知性が他よりも突出して優れているだけで、いたって普通の猫だ」 「顔とスタイルと声と身のこなしと知性って……もう全部ですけど……」 まじめに返す気力もなくなったわたしだったけど、そういえば、この猫は昨日ぐったりとしていて元気がなかったことを思い出す。 「それはそうと、体は大丈夫ですか? 昨日は元気なかったですけど」 わたしが聞くと、猫様は意外にも「おかげさまでな。それについては礼を言う」と律儀にお礼を言ってくれた。「弱った猫を介抱するなんて当然だろ」くらいの言葉が返ってくると思ったのに。 「元気になったなら、何か食べますか? ミルクとかの方がいいのかな」 首を傾げて尋ねてみると、「俺様は子猫じゃないぞ」と目を吊り上げて怒られた。 「え、でも、うちの実家のわんこは大人になっても牛乳ごくごく飲んでましたよ?」 それにも「俺様は犬でもない」と、ぴしゃりと返事をする猫様。 「じゃあ、何だったら食べるんですか」 そう尋ねてみたら、猫様はふんぞり返って一言。 「クリームシチューだ」
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