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はじめのうちは、あの押し合い圧し合いのフロアが恋しい、なんて感傷に浸ったもんだけど、実際にこうなってみると便利だ。何せ、場所の取り合いをしなくていい。席が決まってるから開演までにゆっくり行っても同じだし、ドリンクを取りに行くのも、トイレに行くのも気が楽だ。今まで、取った場所が惜しくて、ドリンクをもらいに行けなかったことなんていくらでもあったけど、今は余裕で開演前にもらいに行ける。
「ずっとこのまんまでもいいわ、あたし」
「私も。これで600円が無駄になんないじゃん」
決して安くないからね、ドリンク代って。
「でもさ、これから来る子たちは逆ダイとか知んないまんまかと思うと、可哀想だね」
あの、バカみたいに熱い空気。暴れ狂うステージ前に詰めてる客の上に、後方から助走をつけて飛び乗るのが逆ダイ。あたしも聖名も、最前列付近でその衝撃を支える方が好きだったし、神奈は走り回って飛んでた。
「知らないなら知らないまんまの方が幸せかもよ?」
聖名がそう言うのも一理ある。知らないものは、ないものだもんね。あの楽しさを知ってるから、あたしらは懐かしんでしまう。
「ただいまぁー」
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