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「ねえ。紘花ちゃんのどこが好き?」焼いた肉をトングで渡しながらわたしは聞いてみる。すると彼は、
「……おまえには言いたくない」
ですよねえ。
* * *
別れ際、頭をぽんぽん――じゃなくって、彼流の、ヘアセットをぐしゃっとかき回す撫で方で撫でられた。そのこともわたしには恋しかった。でも、もう終わり――なのだ。
「マキ。ありがとう。忙しいだろうけれど、健康には気を付けてね。出演作、全部見てるよ」
「ありがとな。和貴や、美織ちゃんにもよろしく」
「うん。ばいばい」
背を向けて別れた。振り返れば……追いかけて、捕まえて、愛を打ち明けたらいったいどんな反応をする? ――でも、それは、絶対にしてはいけないことなのだ。
彼はもう、充分苦しんだ。苦しめたのはわたしだ。東京で別れたあのとき。それから、結婚を告げたあのとき。即座に彼は、悲しみを押し殺してこう言ったではないか。――
真咲。幸せになれよ。
本当に彼の声が聞こえた。振り返った。が、彼の姿はもう、そこにはなかった。
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