#01. 秘密

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#01. 秘密

『もう、これ以上、おまえがあいつのことで苦しむのを見たくはない。  ……いまだけ。おれを、あいつだと思ってくれて構わない……。  我慢なんか、するな』  そう言って顔を歪めてヒロインを抱擁する彼に知らず自分を重ねていた。――これでは、まるで、高校時代の再現みたいではないか。 『我慢なんかすんじゃねえ』――マキがあのとき私を抱きしめたあのぬくもりがまざまざと蘇り、わたしは自分を抱きしめた。――いけない……こんなことを考えてしまっては。  父が教鞭を取る大学の受験に失敗し、失意の底に落ちてた私を彼は励ました。――いまは、もう、友情へと変わっているはずなのに。お互いに。……この感情は。  こうして、ひとり自室で勉強する合間に、こっそり動画を再生するくらいにはクレイジーな女だ。これで子どもも夫もいるのだから。まったく呆れる。  いつからかマキが俳優として活躍するようになった。テレビで見かけるのが当たり前になった。  当たり前のように彼はどんな役柄もこなす。……といっても、彼は、不憫な上司役がはまり役でそればかり演じているが。
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