#01. 秘密

2/3
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 一度、ゲイの役も演じていたがなかなか見事だった。視聴率がふるわず、あんまり見ていないひとばかりだったようだが、彼の演技を棒演技、と評する連中に、あれを見せてやりたかった。  そして。……複雑である。  旧友として……いまでも彼ら夫婦とは交流がある……故郷を共にする仲間として。仲間の活躍を喜ばしく思う一方で……彼を選ばなかった自分の選択は間違っているのではないか? そんなことを思う自分が馬鹿だと思いつつも、彼の存在にいちいち魅了される自分はあまりにも正直で、率直だ。いっそ彼と本気で結ばれていたら――なんて思ってしまうのも馬鹿げているのに。  そもそも彼が、こうして芸能人として活躍するきっかけとなったのが、第二子の誕生である。彼には守るべきものがあり、わたしとてそれは同じだ。とはいえ。  今更私がよりを戻したいのなんて言い寄ったとて……拒まれるに決まっているのに。 「馬鹿だな私」一旦動画を停止させて、ヒロインを抱擁するマキに見入る……このひと、本当に、綺麗……。神がきまぐれでこしらえた彫刻のよう。年を重ねて老けるどころか一層美しさに磨きがかかっている。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!