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なんとなく。鏡の前で自分の姿を確認する。一時期長めに伸ばしていた髪はボブカットにした。いつも、実年齢よりも年下に間違われるのが劣等コンプレックスで、高校を卒業した辺りから、大人っぽく見える、ロングへと髪を伸ばし始めた。
髪を切ったときに和貴はいつも通り花のように笑った。――真咲さんはやっぱボブカットが似合っているよ。――そう。
わたしには愛すべき夫も子どももいるというのに――。
思考を打ち止めにして、論文の入力へと戻る。私の最近の研究テーマ。音楽がひとに与える影響である。
音楽療法、という心理療法がある。音楽の力でひとびとの心を癒そうと試みるメソッドだ。元同級生が東京で研究しているので、近いうちに上京する。日本でも珍しい、カウンセラー部門を有する吹奏楽団を訪れるつもりだ。願わくば。
そのときにマキに会えたら――。
なんて、上京する日を指折り数える自分ほど滑稽なものはこの世の中に見当たらない。馬鹿だな……私。それでも。
「……一度会えたらすっきりするかな……」
と考えてみるくらいには、画面越しの彼に、溺れている。
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