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星の奏でる響きに乗せられ自然と足が、前へ、前へと動いていく。ホールの通路を歩き始めたわたしの胸の底からこみ上げる違和感。指揮台に立って指揮をしているのはまさか……。
見間違えるはずがない。大好きだった……一生で初めての恋に焦がれた、そのひとの後ろ姿を。
曲が終わり、一旦休憩に入るようだった。その、白いワイシャツに包まれた背中を何度苦しい思いで眺めていただろう。――マキ。
「都倉。……来ていたのか」
振り返ったそのひとは、首元がきついのかボタンを緩めると、汗だくの顔でそんなことを言った。――馬鹿。気づかないでよ。
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