青の通り道

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炭酸水は大きな音を立ててステージ端のグランドピアノの真横まで転がっていく。 止まったのを確認した灘乃は、ゆっくりとペットボトルに近づくとそれを手に取り、逆さにして掲げて見せる。 「おお!」 前の方の席から歓声があがった。 やはり青依の席からだとよく見えないが、多分カチコチに凍ったのだろう。 「物理と化学で重複して学習することだが、過冷却状態の液体は力が加わることで初めて変化する」 職員席では山野が何故かドヤ顔で頷いている。 「これ、この前解説してたアレだろ?ちょっと面白いかもな。理系の話って」 真後ろの席から青依を突っつきながら飛田が言う。 ちなみに彼が撮った校内や卒業生の写真は、体育館の壁伝いに相当な枚数が飾られており、式典の装飾を手伝っていた。 「お前らもそうだ。変化には引き金…つまり『きっかけ』が必要不可欠」 「引き金?」 「学校っていう場所は...。まだ成熟しきっていない青少年であるお前ら、いわば『青』の通り道だ。通り道だからここから先は新しい場所、道に進んでいかなければいけない」 灘乃は一瞬、在校生席に視線を向ける。 そして『お前もだ』と言わんばかりに青依とガッツリ目を合わせた。 ...... (なんで椿さんが卒業式にこだわるか分かりますか?) (それは生徒さん達を…漏れなく、間違いなく。確実に『卒業』させるためなんですよ。) ...... 「あ…。引き金が...卒業式なの?だからあんなに...」 青依はあの日、病室で火那から聞いた言葉を思い出した。在校生席から火那を見ると、彼女もこちらを向いて頷いている。 大事なきっかけだから。 卒業生が進むための欠かせない引き金だから。 だから野口や雄一に対してもあんなに怒ったのだ。
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