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救われた少年
「灘乃先生ってば臭いねぇ」
「うっせ。…そんなに臭かったか?」
「そんなことないです!私感動しちゃいました!」
ニヤニヤしている青依と尊敬のまなざしを向ける千歳に挟まれて、灘乃は居心地が悪そうに髪をいじっている。
卒業式が終わった午後には、図書室を静かなひと時が流れていた。
「ステキなはなむけの言葉だったと思いますよ。毎年代表の先生は違いますが、椿さんは初めてでしたよね」
「え?そうなの?」
「そうだよ。結構緊張した」
「炭酸水を振り回してやりたい放題だったじゃん。あれさ、ちょっと振るくらいでも凍るんじゃないの?」
「まあ...」
灘乃はバツが悪そうに口を閉じた。
「…異常無く見えても、実は中で何かが起きてることもあるんだ。小さなきっかけで良くも悪くも状態が一変する。お前らの成長の事でもあれば、この前みたいに人間の感情でもな」
あの日から一週間ほど、恵は購買部に顔を出さなかった。
辞めてしまったのかと不安だった青依だが、翌週からはいつもの明るい笑顔で声をかけてくれ、テキパキとパンを売っていたので心底安心した。
花岡家では色々あったそうだが恵が嫌な思いをすることなく、今は家族で楽しく生活しているらしい。
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