救われた少年

2/4
51人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
「そう言えば青依君、こちらの本は今日から貸出で良いですか?」 カウンターから火那が持ってきた本を、灘乃が覗き込む。 「あ、ちょっと火那さんここで出さないで!」 青依が隠すように火那の手から奪ったそれは、不思議の国のトムキンスだった。 「なんだ?お前こんなの読むのか?」 「ああ、まあ…ね」 「伊東君、選択科目を物理にしたんですよ!灘乃先生に憧れて」 横から千歳が嬉しそうに言う。 「憧れ…?は?お前、教師嫌いなんだろ?」 苦手な食べ物でも見るような灘乃の視線を受け止めきれず、横を向いた青依は顔が真っ赤だ。 「そうだよ。嫌いだよ教師なんて。独りよがりで自分勝手で。でも…そうじゃない人もいたのかも」 そう言って手元の本を握りしめながら、青依はぎこちなく灘乃を見上げる。 「先生は先生だけど…俺の嫌いな先生じゃない...みたい!」 勢いに押されて灘乃が一歩引くが、青依は構わず本を盾のように突き出しながら言葉を続ける。 「先生の言葉は、なんか分かんないけどいつもストンって。心の中に入って来るんだ。実は先生が教える勉強にも前から興味が出てきてて...。だから…だから…!2年生からもどうぞよろしくお願いします!」 大声で言い、それから一礼した青依をきょとんと見た灘乃は、俯きながらも少しだけ笑った。 「おう…。つーかお前、敬語…」 その様子を火那が可笑しそうに見守った。あどけない笑顔はやはり少女のようだ。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!