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「穢れを祓えば、今月の古書市に出せるでしょうね」
そう言ってウッドデッキから一人降り立つと、すぐ正面に鎮座する桜の木々の真下まで移動した。
「安楽に燃・・・」
「ちょっと待った!」
本を掲げようとした火那の腕を、青依の両手がガシッと掴む。
「・・・またですか?」
「いや違うよ!最初の時みたいな未練じゃなくてその・・・」
青依は不思議そうな火那を見返す。
やはり幼く見える彼女の瞳は、まるで少女時代から時が止まったままのようだ。
特殊な体質のせいでずっと負担を抱え、大人になった今でも心は苦労した時代から動けないでいるのかもしれない。
それでも・・・
それでもいつも穏やかに笑って導いてくれる彼女を、青依は心から尊敬していた。
「喜びが倍ならさ、負担は半分こ!ね?」
青依に見上げられた火那は、また驚いたような表情で少し固まった。
それから口元が三日月のようにほころぶと、幼い少女のようにニッコリと笑った。
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