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「う~、奈々先輩…」
「奈々?もしかしてうちのクラスの藤井か?」
「そうだよう。だから先生に語ってるの。3年5組の担任でしょ?」
「俺に何かしろってのか?別に男女交際は校則違反じゃねーけど、あえて間に入るような面倒なことはしねーぞ」
「世間は冷たい…。って、あ!そうじゃなくて…」
青依は自分のカバンから1冊の本を取り出した。
「これ、先輩が貸してくれた文庫本。返したいんだけど「もういらない」って。でも手元に置いときたくないじゃないかぁ!」
豪快に振り回されているその本を憐れむように見つめた灘乃は、やがて小さくため息をついた。
「いらねえってんだから貰っておけよ」
「いやだから、手元に置いておきたくないの!苦い思い出の品じゃん!」
「古本屋にでも持っていったらどうだ?」
「それもなんか嫌!辛い思い出が詰まった本が誰かの手に渡ったらなんかこう…縁起が悪いでしょ?その人にとって」
その言葉になぜか驚いたように目を見開いた灘乃は、急にスッと腰をあげる。
「おお!理解してくれたね先生!これ、奈々先輩に返しておいて!」
青依の声を無視して、灘乃は教科書をまとめてさっさと教室を出て行こうとする。
「補習する気が無いんなら、さっさと行くぞ」
「え?どこに?」
訳が分からず。
しかし教室の鍵を人差し指でぐるぐるまわしている灘乃の様子に、慌ててカバンを掴むと後に続いた。
「それ」
「え?」
「その本持って、ついて来い」
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