ショートストーリー「暗く、悔しい」

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 ガチャ  「ただいま。」  誰もいないはずなのに、ポツリと出る言葉。真っ暗な中、響き渡っている。  手を洗い、うがいをし、晩御飯の準備をする。晩御飯といっても、スーパーで買ったトンカツ弁当と野菜ジュースとペットボトルの水だけだけど。いつもは、自分で作るのに。今日は、しょうがないだろうか。  薄暗い電気の中で、静かに買ったのを食べる。いつもは、大好きな番組をつけながら観ているのに。  サクサク。トンカツの衣の音が耳に響く。なかなか喉に通らない食べ物をむりやり押し込むように野菜ジュースを飲む。油とジュースの甘みが混ざり、口の中が気持ち悪くなる。  思わず、あわてて水を口に入れる。  中がフラットになった状態になったのを確認し、お弁当にふたをし、ベッドに寝そべる。  ツイッターを開くと、見たくもない、見ると暗い気持ちになる物ばかり。  そうだった。この泣きそうになる気持ちはこれのせいだった。    帰り、電車の中で観た大好きなあの人の報道。ニュースの記事を見ると、≪見たくない≫≪引退しろ≫というひどい言葉だらけ。  「ふざけんな。お前らなんかに彼の魅力なんか分からないくせに。」そう返信したかった。しかし、【アンチはかまっていたら負け】という言葉を思い出し、止めた。  スマホを閉じ、うつむきながら、家に向かって歩く。  本当に、どうしたらいいのだろうか。私ができることは何だろうか。  悔しい。悔しい。本当に、辛いし悔しい。    涙を浮かべながら、ツイッターを最新のツイートにするために下に向かってスライドする。  すると、フォロワーさんのあるツイートが目に留まった。  【彼がしたことは悪いことだけど、誰が何を言おうがずっと応援する。彼の作品は何よりもすごくいいことだから。】  はっとする。  このツイートをリツイートするためにもう一度ツイートを見ようとする。  すると、下にあるツイートも目に映った。  【彼がみんなを見返すまで、彼の作品を毎日見て、ツイッターにあげます!】  このツイートを読み終わった瞬間、頬に雫が伝った。  「ああ…ああ…。」  嬉しい…嬉しい…本当に、良かったし、嬉しい…。彼にも味方がいたんだ…。好きになっていいんだ…。  これらのツイートをRTし、私は動画サイトを開く。  彼のインタビューの動画を観る。笑顔で、(この仕事が楽しい!)というのが画面から伝わった。  そうだ。彼が笑っていれば、まだ戻ってくれる余地があれば、彼がいた記録が残っていれば、欲を言えば引退しなければ、それでいいんだ。本当に…それでいいんだ…。大多数のアンチにイライラするよりも、少数の私たちファンと楽しく彼を推せば、彼を応援すればいいんだ…。  動画の共有ボタンを押し、私は泣きながら、ツイートをした。  『インタビューの動画、あらためて観たため、共有します。ずっと彼のファンでいます。』と。  スマホを消し、机に置き、食べかけのお弁当と野菜ジュース、水を持つ。そして、私はキッチンにある冷蔵庫に向かっていった。
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