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 自分の学校では、朝読書と言う時間が有る。10分間読書をするのだ。だが、自分は本を読む事が苦手だ。文字を見ていると眠たくなる。本を読んでいるより体を動かしている方がよっぽど楽しい。その為本を読むフリをしてペラペラとページをめくって凌いでいる。しかし、朝読書の時間を凌ぐには本がいる。読書が苦手な自分の家には、当然本など無い。だから、図書館で本を借りる。図書館の本の貸し出し期間は一週間。適当な本を借りて一週間経ったら本返してまた適当に借りるを繰り返していた。  その日も本を借りて一週間が経ったので図書館に返しに来た。いつもの道理にさっさと借りてグラウンドに行こうとカウンターに本を出す。だが、今日の当番であろう図書委員は本を読んでいて一向に気が付かない。自分は「はぁ」 と小さく息を吐く。 「本、返したいんだけどぉ」 と声をかける。すると本を読み耽っていた図書委員は顔を上げる。眼鏡の奥の目が不機嫌不機嫌そうに細くなる。図書委員は慣れた手つきで本のバーコードをバーコードリーダでスキャンする。そして、本をズッと差し出してまた本を読み始めた。無愛想なヤツだと少しイラッとした。差し出された本を手に取る。本を戻そうと朧げな記憶を元に本棚に近付く。だが、どこに有ったかを忘れてしまっていウロウロと本棚を見て回る。ふと窓の外を見るとクラスメイトがグラウンドでサッカーをしている姿が見える。自分も早く行かなくてはと焦る。焦りに焦って探して、やっとこの本があった場所を見つけることが出来た。本棚に丁度空いた一冊分の隙間に本を挿し込む。途中で本が隙間に入って行かなった。途中で入らなくなった本の背表紙を無理矢理押し込む。本を入れ込むとそのまま手を伸ばして適当に本を抜き出す。窓の方を横目に見る。まだ、グラウンドではまだクラスメイトがサッカーをやっている。ホッとする。これから行ってもサッカーが出来そうだ。早く自分も加わる為に、急いでカウンターに行こうと一歩踏み出して足を止めた。  そこには同級生の栗下瀬名の姿があった。透明感のある肌に艶のある黒髪。横顔はいかにも清楚といった顔立ちだ。まぁ只、他の女子と比べると少し体が大きいのが玉に傷だ。栗下はカウンターの図書委員と話をしている。確か、栗下も図書委員だった筈だ。栗下と話す図書委員の顔はにこやかだ。自分には見せなかった顔だ。本当にムカつくヤツだ。栗下は図書委員と少し話をした後、カウンターに入る。図書委員はカウンターの正面に有る椅子に座る。どうやら栗下は何やら用事があったらしく、その用が終わるまで他の図書委員に代わってもらっていた様だ。カウンターに向かう、一歩一歩踏み出す度に胸の高鳴る。自分はそれを気取られぬように気づかれぬ様に気を張りながら、カウンターの前に立つ。ぎこちなく本を出すと栗下は丁寧に受け取るとその本を見て、少し驚いた様子だ。栗下は自分は顔を見る。 「森山君って、こういう本読むんだ?」 「えっ」 思わず変な声を上げる。それを見て栗下は 「ほら」 と自分の借りようとしている本の表紙をこちらに見せる。そこには空の絵が描かれている。だが、その空の絵は少し変だった。青い空に2つの太陽が描かれている。その上には仰々しい書体で、『二つの太陽殺人事件』と書かれていた。当然の様に知らない。それに本の題名を今始めて目にした。忙しなく頭を掻きながら 「え、まぁ、うん」 と返す。栗下は表紙を自分に向けると嬉しそうな顔をする。 「そうなんだぁ。わたし、この人の書いた小説好きなんだ。ねぇ森山君、他にこの人の小説何か読んだことある?」 栗下の問いに自分は正直焦った。どう返したものかと少し考えを巡らせて返す。 「いやぁ、その…初めて読むんだ。この人のぉ本」 「そうなの! じゃあ今度オススメの本教えてあげるね」 栗下は嬉々として言う。それに 「う、うん」 と消えいる様な声で答える。  図書館を出て廊下をゆっくりと足を動かす。数歩行って手に持っている本の表紙を見る。すると栗下の眩しい笑顔が脳裏に浮かぶ。その笑顔を思い出すと自然と顔がぼうと熱くなった。
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