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第1話 草食系異世界男子の、独白。 とツッコミ。
恋愛ってなんだろう。
昔からわからない。
マンガやドラマの恋愛を見ていると、何だか凄く切なくなる。
現実でそんな恋愛したことがあるかと言われると、微妙だ。
付き合った経験はある。
触れて舐めて撫でて、挿入したことも当然ある。
でも、それって恋愛なんだろうか。
休日に一緒に出掛ける。
だいたい彼女の行きたいところに合わせる。
彼女は事前に「どこでもいいよ」とは言うのだけれど、ちょっと僕の提案が外れていると少しづつ声のトーンが尖って来る。
結局、彼女は僕と一緒に過ごしたいのだろうけど、「彼女の気持ちにぴったり寄り添った僕」と一緒に過ごしたいのだろう。
でも、僕は実際のところ、そこまで彼女の行きたいところに行って過ごしたいとは思ってないんだ。
本当は、自分の部屋でゴロゴロして、最近買ってまだ読みかけの本の続きを読みたかったりするんだ。
そんな、他人からするとつまらない過ごし方が、僕にとっては落ち着くんだ。
だけど、言い出せない。
彼女に幻滅されるのが怖いから。
がっかりされるのが怖いから。
上手く生きる、それしか親にも教師にも、教えられてきていない。
恋愛って、上手く生きるためには大事なものだろ?
だから、幻滅されるのが怖い。
でも、彼女は本当の僕を知ろうとしてくれないんだ。
彼女が欲しいのは、彼女に寄り添う、理想の僕だけなんだ。
トロフィー扱いされるのは御免だ!
ねえ、恋愛ってなんだろう?
わからない。
わからないんだよ!
「知らんがな」
アタシはつい吐き捨てるように言ってしまった。
ここまで我慢して聞いてやったんだ、誰かアタシを褒めてくれて良いと思う。
町まであと僅かの街道の、途中の木の袂。
そんな判りやすい場所で膝を抱えてしくしく泣いてる黒髪の男。
服装も、貴族が普段着で着るような、ブレザーにネクタイ姿だ。
ちょっと好奇心で「どうした?」って声を掛けたら、いきなり自分語りが始まりやがった。
「おい! 立て!」
ブレザー男のネクタイを掴み、グイっと持ち上げ立たせる。
思ったより背が高い、アタシより頭一つ上だ。
「なあ、何いきなり語ってんだ? お前名前は?」
「い……一ノ瀬優斗」
「何だよ、異世界人だな? 来たばっかかよ?」
「そ、そう……気づいたらここに居たんだ」
「何でいきなり自分語り始めてんだよ! 普通ここはどこですか、とかそんなこと聞くんじゃねーのかよ。てんめえ、自分がモテると思ってやがんな」
「いや、そんなこと思ってない……」
「思ってるに決まってんだろうが! アタシが女だからって泣き落とそうとしてんだろーが、頭腐ってんな」
「いや、『母性本能くすぐり』って特典付与されたもんだから……」
まったく、こいつらときたら……
「あのなあ、オマエら異世界人ってな、何でも頭でっかち過ぎんだよ! レンアイがどーとか、知るか! 男と女なんてな、肌合わせてりゃ情が湧く、そんなもんだ! 大体オマエの言ってることは、理解して貰えない可哀想なボクちゃんでしゅ~、ママ、慰めて~、ってなもんだアホ!
しかも『転生特典・母性本能くすぐり』だあ~? そんなもん、特典でも何でもないわ! オマエら生命力、弱すぎんだよ! そんな特典あってようやくアタシらとどっこいどっこいだっての」
はああぁぁぁ~
アタシはコイツのネクタイを掴んだまま、深ぁ~く溜息をついた。
「来い! 町でテメエの価値観、ぶっ壊してやるからよ」
「そ、そんな、会ったばかりでいきなりそんなこと……」
何かごにょごにょ言ってるコイツを、ネクタイを引っ張り無理やり町に向かって街道を歩き出す。
「おいおい、勘違いするんじゃねえぞ! アタシが相手する? んな訳あるか! アタシにだって選ぶ権利ってもんがあるわな。オマエはまだ全然アタシのおメガネに適っちゃいねーよ! アタシが奢ってやるからよ、知り合いのジェニーに相手してもらうんだよ!」
初めて会ったコイツにここまでしてやる義理は本来ないんだが、何かコイツのナヨった価値観をぶっ壊してやりたくて仕方がない。
ラミアのジェニーなら、ヒューマンとは違ったヌメりプレイでコイツのナヨりをぶっ飛ばして、この世界に馴染ませてくれるだろう。
ちぇ、こんなことアタシが考えるなんざ、もしかしたらコイツに『母性本能くすぐ』られてんのかもな。
ま、いいか。
アタシはついニヤっとしながら、コイツを引っ張り町の門をくぐった。
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