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第3話 草食系異世界男子の、身の上。 その1
「よーう、どうだったよ? ジェニーの技はヒューマンにゃマネできねえ心地良さだったろ」
アタシは隣の席にパン1でぐでっと突っ伏したコイツに尋ねる。
突っ伏したまま動かないコイツ。
おいおい、異世界じゃあ出来ない目くるめく体験の、アタシャスポンサーだぞ。
「何でレディアが威張るのよぉ。プレイしてあげたのは私よぉ?」
隣のアイツはそのジェニーの言葉にピクン、と肩を震わせた。
「何だよ、プレイ代金出してやったスポンサー様の言葉は無視か? いい度胸してんじゃねえか」
カウンターに突っ伏して、まだジェニーの粘液を頭から滴らせているコイツの脇を「おい、スポンサー様に感想の報告は?」ともう一度言って肘で小突く。
「ううう……ぬめっとした粘液で滑る鱗のざらつきが、あんなにいいもんだとは思いませんでした……まるで、魔性の女性の中に全身が絡め取られたみたいでした……」
突っ伏したまま、こっちに腑抜けた顔を向けながらトロトロ感想を漏らす。
コイツの言に骸骨ジェイクも同意する。
「そうだろ? ジェニーに締め付けられてると、自分の骨がギシギシ言うのなんざ気にならねえで、もっともっと締め付けてくれ、って感じになるよなあ」
「ジェイク、あんた店の商品つまみ食いしてんのかよ。そんなんでいいのかい?」
「あらあ、暇な時期はアタシが技を忘れないようにジェイクを練習台に使ってるのよぉ」
「店主の役得だぜ。ってか、店の商品のチェックみてーなもんだわな」
「ったく、骸骨のくせにどこ勃つってんだよ、見せてみろよ」
「普段は腰骨の中に収納されてんだよ。どうも俺ゃ元ヒューマンじゃなかったみてーなんだよな」
「てめーの元ネタなんざどーでもいいわ! 謎だらけの骨野郎! ったく、たまにてめーがジェニーの粘液のニオイさせてんの、てめーが床とかベッドとか掃除してっからかと思ってたわ。まさかヤッてるとは夢にも思わねーよ」
「骨まで愛してもらってんだよ」
「骨のくせに肉欲あるって、サギかよ全く」
アタシとジェイクがそんなやりとりをしてると、ジェニーがにゅるっとコイツにまた抱き着き、自分の粘液に塗れた頭を舐め回す。
「しょーがないでしょ、アタシらラミアは興奮すると匂いが出るんだからぁ。アタシの技の虜になったら、この匂いでもうビンビンよお」
ジェニーがそう言うと、コイツは目を閉じて「はぁん」とでも言いそうな表情をする。
アタシもコイツの背筋を人差し指でツーっと上になぞってやると
「ひゃん」とか声を上げやがる。
背中をなぞった人差し指の臭いを嗅ぐと強烈なジェニー臭だ。
生臭いんだが、何か甘ったるい。
それがまた、イラっとする。
アタシはそのイラを言葉でコイツにぶつけた。
「だいたいなあ、オマエみたいに異世界人でナヨッた奴ってのは、殆どが元の世界で、ナヨッたこと言って女の気ぃ引いてきたヤリチン野郎って相場が決まってんだよ! こんのナヨチンが!」
「そうよねぇ、だいたい愛だの平和だの言ってる男の異世界人って、言葉で同族の女の気を引くのが手なのよねぇ。でもぉ、結局はぁ、力を誇示して気を引こうとする男と行きつく先は一緒なのよねぇ。女を不幸にするばかり……」
ジェニーがそう言って、コイツの耳の穴に細い先の割れた舌の片割れを忍ばせ、チロチロすると、
「はいぃぃ、そのとおりですぅぅ、はっ、はふぅ~ん」
とだらしない声を出す。
「でもぉ、この子、私のプレイどこまでも受け入れるから、ついつい殺しちゃうくらい締め上げたんだけどぉ、平気で感じてたわよぉ。単なるナヨチンじゃあないんじゃなぁい?」
「おい、オマエどんな奴なんだよ。ジェニーのマジ締め付けに耐えられるヒューマンなんざ、これまでいやしなかったぞ」
ジェニーがマジで締め付けたら、真の意味で昇天してるはずだ。
なんたってジェニーの種族ラミアは、過去ヒューマンをパックンチョとリアルに食ってたらしい。
締め付けて、息の根止めて、パックンチョ。
詠み人知らず
最も快楽で昇天させてから食うんだから、食われた奴らは幸せな最期だったろうな。
そんなことを考えるアタシを気にせず、骸骨ジェイクはまたまたプレイ自慢をする。
「俺なんざ、ジェニーの締め付けがきつすぎて一回バラバラになっちまったぜ。骨が折れなかったのが幸いだったけどよ」
「ジェイク、お前は黙ってろ! 話がずれんだろうが」
「俺ぁバラバラになってもズレない男だぜ」
「ほーぉ……本当にズレないもんか確かめさせろよ……そんでついでにてめーの謎チン骨引っこ抜いてやらぁ!」
「やめなさいよぉ、レディアったら全くぅ。このボクちゃんの話じゃなかったのぉ?」
ジェニーの声で、ああそうだった、と思い返し、骸骨ジェイクとじゃれ合いを止め、金貨をカウンターにバチンと置き骸骨ジェイクに注文する。
「アタシにもう一杯エールと、こっちのナヨチンに気付けんなるモン頼むわ」
「レディアぁ、アタシにはぁ?」
「アンタにゃ大金払っただろうが! 自分の分は自分で頼みな。つーか店員だろ、仕事しろ仕事」
「そうだぜジェニー、大体部屋代まだ払ってもらってねーぞ」
骸骨ジェイクがアタシの前にバケツジョッキ、ナヨチンの前にショットのグラスを置きながらジェニーに催促する。
「ジェイクぅ、体で払うんじゃダメぇ?」
ジェニーはそう言いながらニュルリとカウンターを乗り越えて、骸骨ジェイクに抱き着く。
「ジェニー、そーんなシナ作ろうと通用しないぜ。きっちり払うモンは払えよ」
骸骨ジェイクは今日初めて店主らしいことを言い、ジェニーの腰に手を回すと、撫で回したりはせずに腰の金貨袋に手を入れ、きっちり150ゴールドを抜き取る。
「もーぅ、高いじゃなぁい」
「お前の汚した部屋、階段、カウンターの掃除代込み。ったく、今日は興奮しすぎだぜ。繁盛してたらお前の粘液で階段滑り落ちる客続出だ。後で掃除したらきちんと給金に乗せとくからな」
「はぁーい、わかったわよぉ」
ジェニーは悪びれもせず、自分でグラスに酒を注ぐと、骸骨ジェイクの横で飲みだした。
掃除しに行かないんかい。
「おい、ナヨチン。コイツもアタシの奢りだ。感謝しながら飲めよ」
隣のナヨチンにそう声をかけるが、ナヨチンはぐでっと幸せそうな顔をしたままグラスに手を付けようとしない。
しょーがねーな。
アタシはショットグラスの中身を一気に口に含むと、ナヨチンの頭を掴んで持ち上げ、思い切り口付けして中身をナヨチンに送り込んでやった。
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