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第6話 草食系異世界男子の、お仕事。
何でか知らんがいつの間にか一文無しのナヨチンを、アタシが面倒見ることになっちまってた。
骸骨ジェイクは2階が一応宿屋だし、隊商も来てないのでヒマだろうからナヨチンを泊めてやるだろうと思っていたが、「拾った奴が最後まで面倒見るのが筋ってもんだろ」と言って頑なに断り続けたので、仕方なくナヨチンをアタシの鍛冶場で寝泊まりさせている。
寝泊まりさせるにあたり、アタシは宣言した。
「寝てるアタシに手を出そうとか思うなよ。アタシの秘技に『浪返し』ってのがあるからな。無意識で反撃するから、手加減できねーぞ」
まあ実際に『浪返し』で他の町に言った時、夜這いかけて来た奴をボコったことがあるから、言っといてやるのが親切ってもんだろう。
ナヨチンは板の間でござ2枚で寝ている。
まあアタシも同じようなもんだが。
そんで毎日やることもなさそうってことで、一日20ゴールドでアタシの鍛冶の手伝いをやらせている。
20ゴールドははっきり言って安い。
ギルドや酒場の依頼だって、一応最低の依頼でも50ゴールドだ。
ただ、鍛冶の手伝いってのは基本的に鍛冶の技法を学ぶためにやるモンで、金を稼ぐためのモンじゃない。修行みたいなもんだ。
だから一日20ゴールドってのは全国他の鍛冶屋と同じ賃金だ。アタシがナヨチンをイビろうと思って安くしている訳じゃない。
メシだって朝は買ってきたメシと、夜は骸骨ジェイクの「骸骨亭」へ連れてって食わせてやってる。当然代金はアタシ持ちだ。
ナヨチンは、やっぱり持ってる「母性本能くすぐり」ってカードのおかげで幼子を除いて女にゃちやほやされてる。
一日使う水を早朝川まで汲みに行くのが日課なんだが、そんな時に川に水汲みに来ている女房衆に、あれこれ話しかけられてニヤつきながら話している。
まったく呆れちまうが、ナヨチンが汲んだ水を運ぶのを女房衆が率先して手伝いたがってた。
最初の頃は断りつつも押し切られたって体で運んでもらってたが、ちょっとづつ断るようになってるのは、ナヨチンにとって進歩かなって思うんだが、女房衆よりもヨタヨタへっぴり腰で運んでるのは男としてどうなんだって思う。
アタシはナヨチンがうちに居候しているのもあって、今のところ農具や包丁などの生活刃物しか打っていない。
剣や鉄砲などは本当に一心不乱に30日鍛冶場に籠って打たないと魂が入った奴が打てないんだが、ナヨチンがいるとそうも行かない。
だから比較的短時間で打てる生活刃物が中心になる訳だが、それを手伝ってた成果でナヨチンは「農具向上」を覚えた。
最もまだそれだけじゃ鍛冶の最初の称号の「職人」だって得られない。
「職人」は剣でも鉄砲でも一人で打って完成させることができてようやく得られる称号だからだ。
まあ、今は何とかナヨチンを一端の「職人」くらいにはしてやろうと思ってる。
手に職が付くからって訳じゃない。
一応ナヨチンの今後を考えてのことだ。
実はこの世界の住人は皆収納するストレージを3種類持っている。
一つは金を収納するストレージ。
こいつは誰でも収納量は同じ。最大金貨99万ゴールド。入れてみてえもんだな。
次に剣や防具、書物などの貴重品を収納するストレージ。これは際限なく収納できる。
もう一つ、交易品を入れるストレージ。通称「荷車」って言ってる。
交易品ってのはギルドで扱ってるその町の特産品で、町によってラインナップが違っている。金を稼ぐには同じ交易品がない町へ持って行って売るってのがポピュラーだ。最も隊商が販路で繋いでる町同士で片方にない交易品だと思ってギルドで売ろうとすると、隊商が大量に持って来てて大した金で買い取ってもらえないってこともあるから、事前にその辺は調べとく必要はある。
そんで隊商や元締めの商人はこの交易品を入れるストレージの「荷車」の容量が大きい。通常の3倍以上は入るようになっている。それだけ多くの交易品を運ぶためだが、実は鍛冶の称号を得ると、商人程ではないけれど「荷車」の容量が一般人より大きくなるんだ。薪炭とか鉄とか材料運ぶためなんだけどな。
つまり、鍛冶の称号を得ておけば、将来何やるにしても交易で品を多く運べて金をそれだけ多く調達できるようになる。
城勤めにしろ傭兵になるにしろ、金を調達してこいって主命はあるらしいんで、ナヨチンが将来何になってもいいようにってアタシなりの親心。
やべ、母性本能くすぐられてるのか?
それと、鍛冶と医師になると、実はもう一つストレージが持てるってのもある。
鍛冶の場合、剣などを打つ材料の鉄を作るために砂鉄採集する。この砂鉄を入れておくストレージが追加される。
医師の場合は生薬の原料の薬草を入れるストレージだ。
鍛冶は採集した砂鉄と交易品の薪炭を使って鉄を作る。
医師は採集した薬草から生薬を作る。
鉄と生薬は交易品扱いになるから、剣や薬にしないでギルドに売ったっていい。
鍛冶と医師の称号を得たら、一人で最大5つのストレージが持てるんだ。
アタシも一応、ナヨチンがこの世界でやってけるように考えてるんだけどな、何かナヨチンを見てるとイラっとするのはやっぱり変わらねえ。
仕事はヨタりながらも真面目にやろうとしてるし、根は悪い奴じゃねえってのはここ何日かでわかっちゃいるんだが……
やっぱり故郷のアイツがダブるからなんだろうか。
何だかんだでナヨチンがここに来て1週間くらい経った。
アタシがナヨチンを拾った時に採集してきた砂鉄がそろそろ無くなる。
ナヨチンに砂鉄採集を教えてやってもいい頃か。
「おい、ナヨチン。砂鉄採集に行くぞ」
「はい、レディアさん」
「オマエ、得物は何にするつもりだ?」
「砂鉄採集するのに、武器って必要なんですか?」
「あったりめーだ! ここはニホンと違って物騒なんだよ。街道歩いてたって山賊出るし、山ん中入りゃ野生動物や魔物だって出る。酒場で用心棒雇うってこともできるけど、決まった日数が経ちゃスーッと居なくなっちまう。基本自分の身は自分で守るんだよ」
「……でしたら、一応剣にしときます」
「弓じゃなくていいのかよ?」
「弓は中学の時に部活でちょっとかじっただけなんで……この町だと弓を教えてくれそうな人って見当たりませんでしたし……剣なら骸骨ジェイクさんに教えてもらえそうかな、って」
「ジェイクは確かに凄腕だし、隠してるけどトーヨスライ流の免許皆伝されてるんじゃねーかな、とは思うから弟子取って教えるってことも多分できるけどよ、聞いたんだろ? アイツに手合わせで勝たないと『カード』は貰えないってことは」
「はい……でも、今できることやっとかないとって思うんです……」
言葉の端々にナヨっとしたものを感じるが、ナヨチンなりに真剣なんだろう。
「アタシャオマエみてーな弱っちい奴が剣を得物にするってーのはあんまお勧めできねーけどな。まあ自分で決めたんなら、無理に反対はしねーよ。
じゃあ、野盗にやられて砂鉄採集もできずに帰って来るなんてなったらアタシが困るからな。ちょっと待ってろ」
アタシは打った剣をしまっておく保管庫から剣を一本取り出しナヨチンに渡した。
「ソイツはアタシが『名工』になった後、ようやく打てた価値6の記念すべき剣だ。銘はてきとーに付けちまったから読むな。でも価値5以上の武器ってのは基本ステータスの武力を上げてくれる。アタシの打つ武器はけっこう武力上げる値が大きいんだ。そいつは武力12上げてくれるから、オマエの武力は37になる。
それでも全然クソ弱えけど、多少マシにはなるだろ」
「銘の『あか斬れ』って、どういう意味ですか……」
「てきとーだ、つってんだろ! ……多分そん時、手があかぎれで血がにじんでたからだよ」
「……ありがとうございます」
「じゃ、支度して砂鉄採集行くぞ」
アタシはそう言うと、何となく落ち着かなくなってナヨチンより先に鍛冶場を出た。
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