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その独特な音は悪魔が水を踏んだ時に鳴るもの。何故かはわからないが、その音が悪魔のものだと解っている。
直ぐさま近くにあった荷馬車の後ろに隠れ身を潜める。
ばしゃん……ばしゃん…ばしゃん
だんだんと音が近付いて来てる気がして、恐怖が募る。思わずギュッと両手を握る。
ふと、荷馬車の車輪に何かがあることに気づく。良く見ると車輪のある辺りは少し窪んでいて、そこに水溜りが溜まっている。
波紋が広がって見にくいが何かがある事が伺える。その何かを見ようとじっと目を凝らして見ると、直ぐにそれは何か判明した。
(……っ!)
自分が何を見てしまったのか。
血の気が引いていく感覚が全身に伝わる。
何かだと思っていたのは “ 目 ” だった。
悪魔の特徴である真っ赤な目。
アレは他の悪魔と違う。
真っ赤な目は少女をじっと水溜り越しに見ていた。目を細め、観察するように。
まるで考える知識があるみたいに。
『…ミツケタ』
はっきりと呟いた言葉に少女は考えることをやめて走り出す。
ばしゃんっ
後ろを振り返る勇気はなかったが、確実に近づいてきているのは明白だった。
「…っ…」
複雑な通路を走り、大通りへと出た頃には
走る速度が落ち、息切れを起こしていた。脚が重く、走るのすら限界に達していた時、丁度良く前方に木箱の積み荷を発見する。最後の余力を使って態と木箱の積み荷を崩し妨害する。
子供が崩せる時点で足止めにならない事は明白だったが、自分が逃げるチャンスを作る為に行動するほかない。
バキッと大きな音が背後で鳴る。
思っていた通り足止めにはならなかった。
どうやってこの後、逃げ切るかを考えていると目の前に工事中の看板が立っていた。
看板の先を見ると荷馬車に積み上がった煉瓦の山が道端を塞いでいる。
瞬時に登れるものはないかと確認すると工事中の建物に梯子が掛かったままなのを見つける。
急いで梯子に捕まり、上に登る。
ガシャンっと大きな音が下から聞こえ、恐る恐る覗くと先程登った梯子が歪に曲がっていた。
直ぐにあの巨大な体が体当たりをしたのだと理解し、血の気が引く。
『グルルル』
聞いた事ない嫌な音に下を見るとあの大きな口を持つ悪魔が歯を剥き出し、こちらを睨んでいた。
「…ッ!」
恐怖で動けなくなる足を何とか奮い立たせ、その場から逃げる。
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