童子村変死体事件、捜査十五日目。

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童子村変死体事件、捜査十五日目。

真奈ちゃんが他の人たちには見えていないことが分かった翌日の朝、起きていつもいるハズの真奈ちゃんの姿が見えなかったが、いつも通り出勤してまた事件のことを調べていた。そして、殺人や変死体の事件ではない、放火の事件のことも。 久々に、隣に僕のくせっ毛と猫毛をからかってくることがない朝だった。久しぶりに自分の寝ぐせをバカにされることもない、寝る前にちゃんと髪の毛を乾かせと指摘されることもない、朝だった。起きていつもと同じ朝ご飯のメニューが置いていない朝だった。 あの男の子と俺以外は真奈ちゃんのことが見えなかったことがわかっても、まだ少し違和感があって、心残りもあった。 俺は外で取り調べと言う名のサボりをする為に、署の外へ出て人通りが多い場所へ行った。 そして、何故か俺の頭の中に、童子村の中にある神社の前で立っている真奈ちゃんの絵面が浮かんだ。これは根拠のない直感なのか。それとも霊感なのか。 あの童子村の事件と関わってから、東雲有紗を裸で発見した時から、こんなことが続く。 ものすごく急に焦燥感に駆られて、仕事を早退することを決めて、署の方に戻りそのまま私情で無理矢理早退すると告げて急いで、童子村へ向かった。  童子村に入ると噂などで聞いたことがない、昼間なのにうじゃうじゃ禍々しいこの世のものとは思えない存在がいた。 そのこの世の存在と思えない者たちが一斉に俺を見る。そして、俺をあざ笑いながら一言こんなこと言っていた。 「あの人間、新しい鬼に喰われに来たのか。」 「珍しい女の怨霊になりかけている生霊の鬼だぞ。」 「鬼に愛された女が鬼となろうとしているのを邪魔しに来たのか。」 だが言っていて、こいつらは俺を殺そうともしなかった。 無駄な抵抗だと思われるだろうが、一応、自分の身を自分で守れるように拳銃を持ってこの童子村と呼ばれる場所にある神社の敷地内に入り、この妖怪か鬼とか呼ばれる存在を何故か俺は無視できているようなっていて、そのまま突き進んで行く。 この村に入った瞬間に昼間なのに、暗くて霧がかかってあんまり見えないがおどろおどろしい雰囲気は感じた。  童子村にある神社に行くと、不謹慎ながら勝手に神社にある扉を勝手に開けて、神社の建物の中に入ったら、真奈ちゃんが裸で横たわっていた。 けど、神社の中に入ったはずなのに、神社の本殿のような部屋ではなくて、散らかっていて台所がある、俺の部屋ではない何か別の誰かの部屋のようだった。  真奈子ちゃんが横たわっている隣に、三つ目がある二メートルぐらいの大きい筋肉量が多そうな男の体をした鬼もいた。 そして、真奈ちゃんが所謂、生霊になる前の過去の出来事が走馬灯のように見せつけられて、真奈ちゃんは弱々しく地面に倒れながら一生懸命に、「見ないで。」と言ってくるけど、 俺はそれから目を逸らせずにいて、真奈ちゃんの過去の出来事の心の痛みであろう感覚に耐え切れず、彼女の前で嘔吐してしまった。  身体的な虐待はされていないだろうけど、精神的な虐待をされて育ったのかと。小さい子供だった頃の真奈ちゃんが母親に、 「お前がいるせいで離婚ができない。」 「お前のせいで私は不幸になった。」 と言われていたり、目の前で真奈ちゃんの母親だと思われる女性が、真奈ちゃんの父親ではなさそうな男と仲良く小さい真奈ちゃんの前で楽しくデートをしている場面を見せつけたり、自分の嫁が目の前で不倫しているのに、それを解決しようとしない真奈ちゃんの父親かと思われる男性。  そして、おかしな母親だと言う噂で、他の近所の子供に蔑ろにされて小学校でも、精神的なサンドバッグにされ、転校先の中学校でも、集団で気持ち悪いだの死ねばいいだの言われる日々を送る中学生の真奈ちゃん。  やっとの思いで両想いだと思っていたあのショッピングモールで見た男の子と付き合おうとしたら、周りからバカにされて、実は作品の為に、彼女の感性を盗作する為に付き合っていたことを知った上に実は自殺したあの若い男の子の画家が好意を持っていたことを、伊吹柊君を通じて彼の遺品を見てその好意が確実だったと知った、僕の前に現れる直前ぐらいの真奈ちゃん。 これは彼女の心の痛みと言うよりかは、彼女の麻痺してしまった「寂しい」と言う感情なのか。 彼女は、親や他人のエゴを埋める為に生まれてきたことに対する凄まじい怒りや恨みをこれだけ抱えて生きていたのか。 そして、凄まじいほどの甘えたいとか関心を向けられたいとか、その願いが叶わなかったことに対する悲しみ。 勉強詰めや世間から認められる為に無理矢理勉強をさせられて、社会人になって初めて挫折した僕と違って、あれだけ愛されて大切に育てられていたのかこの可愛らしい感じの女の子はと思って、正直彼女を舐めていたのが本音だ。 まさか、その人生のスタートラインから俺のとは違う事をこんなに見せつけられて、自分の浅はかさをこんなに目の当たりにさせられるなんて。 目を逸らすことも目を瞑ることも俺はできなかった。今、彼女がうろたえながらも見ないでくれって言っていても、だ。 そして、真奈ちゃんの心の闇が具現化したかのように、それは三つ目の二メートルぐらいの額に二つの角が生えた鬼が隣で突っ立っていた。 真奈ちゃんの家庭環境が冷え切っていたように、冬でもないのにいきなり俺はかなり寒気を感じた。凄まじい寒気を感じながら、胃の中のものを出してしまう。 その鬼は、胃の中のものを全部出した俺の様子をうかがったように、俺が吐き切った直後に、両手で俺の首を絞めてきた。 何故だかわからないけど、俺は今まで俺の家にいた頃の真奈子ちゃんの喜怒哀楽激しい表情や楽しかった青春のような一コマ一コマが頭の中に過った。 こんな状況になっても。  いつから俺はこんなに強くなったのか、これが火事場の馬鹿力なのかわからないが、その三つ目の鬼の目をまっすぐ見るように言った。 「俺の今の気持ちは矛盾しているよ、真奈ちゃん。ハッキリ言って、真奈ちゃんには今すぐに死んでこれ以上の心の傷が増えないように楽になって欲しいと言う気持ちと、俺が守ってやるから、俺が真奈ちゃんを幸せにするから、また傷つけられたとしても生きていて欲しいって言う気持ち、両方があふれ出てきている。」 やばい。意識が少し遠のくってこういう感覚なのかと思いつつ、俺は真奈ちゃんの心の闇が具現化した禍々しくて大きい鬼に問いかけた。 「真奈ちゃんも自分を殺したくなるほど、自分の生まれた家族の元やこの世界が憎かったんだろう。他人が妬ましかったんだろう。俺の事が好きなように見せかけて、本当は心の奥底では、真奈ちゃんの気持ちに共感できないほど、真奈ちゃんより薄っぺらい人生を送ることができていた俺の事も本当は憎かったんだろう。」 自分に余裕がない状態なのに、口角を上げてすらすらと真奈ちゃんの本音を煽るように余計なことをペラペラ言ってしまう。もしかしたら、こんなに女の子から、一人の人間から愛憎が入り混じったドロドロした感情をぶつけられて興奮しているのかと、自分の変態性に気づいてしまうかのように。 「もう一層のこと、真奈ちゃんに殺されても良いかも。哀れな刑事の変死体が童子村で見つかったって騒がれてもいい気がしてきた。虚無な人生だったよ。でも、真奈ちゃんに殺されるならば、その虚無な俺の人生もマシになるかもな。」 と、憎まれ口か愛の告白かわからないことを、あの三つ目の鬼に首を絞められて白目をむきそうになった時に、真奈ちゃんの心の闇が具現化したかと思われる鬼が砂になっていった。 そして、あの神社の敷地内、もとい、童子村と呼ばれる場所にいた禍々しい妖怪や小さい鬼たちもどんどん砂になって消えていく。 空も明るくなっていく。  首を絞められていたが、あの三つ目の鬼が砂になって段々消えいったので、ようやく俺はまともに息ができるようになったが、呼吸を整えるのに必死でしばらく息を切らしていた。 あの三つ目の鬼が消えても、真奈ちゃんは横たわって目覚めないでいた。しかも、裸で。 真奈ちゃんの体をまじまじと見てしまう。 毎回、彼女の裸を見るたびに背が低くて痩せっぽちなガキみたいだなと思ってしまうけど、案外、女らしい体をしていることに見入ってしまう。その部分だけやけに発育が良くて。マニアックな男が受けそうだなと、見入っていた。数秒だけ。 また、あんな禍々しいこの世のものとは思えない存在に殺されかけるかと思ったので、いち早く彼女を、お姫様を抱きかかえるような体勢で、自分のスーツの上着を彼女にかけて、あの朱色の鳥居から出て自分の車に乗せて、一目散に自分の家に帰って、真奈ちゃんを自分のベッドの上に寝かして俺は、署の方に急に早退することになって申し訳ないと電話し、今度の非番に出勤することを伝えた。 それでも少し恐怖が残っていたので、気を紛らわすために昼間からビールを飲みながらテレビを見ていた。 すこし贅沢かもしれない。昼間っからビールを飲みながらテレビを見て仕事をサボって早退するなんて。  童子村から真奈ちゃんを連れて帰って戻ってもまだ目覚めない。脈とか計ったけど、脈はあるようで寝息も聞こえる。耳がくすぐったかった。 何故だかわからないけど、この瞬間が微笑ましく感じる。俺は恐らくこの子に殺されかけたのというのに。  多分、俺はビールを飲んでテレビを見ながら寝落ちしてしまっていたんだろう。そして、今、夢を見ているのだろう。 夢の中でも、俺は自分の部屋にいる夢を見ていた。 玄関には自殺したと思われる、鵜飼椿君が真奈子ちゃんをお姫様のように抱きかかえていて、彼女は夢の中でも眠っていた。 そして、一言、彼は俺に向かってお礼を言ってきた。 「真奈子ちゃんを、助けてくれてありがとうごさいます。」 俺は、その鵜飼椿君の事も真奈ちゃんのことも色々聞きたくて話かけようとしたけど、俺の声が全く出ない。そして、彼は黙って、真奈ちゃんを抱えたまま俺の家から扉を開けて出て行った。 彼が扉を開けて出て行った時、その扉の隙間から白くて強い光が差し込んで、その光の中に彼と彼女が埋もれるように消えてしまった。 追いかけようとした瞬間に、俺は何かから落ちるような感覚で焦って飛び上がるように 目が覚めた。  急いで、真奈ちゃんの様子を見たけど、相変わらず真奈ちゃんは寝ているだけだった。 寝ている真奈ちゃんを見ていると眠り姫と毒林檎を食べて一時的に死んでしまった白雪姫を思い出したので、彼女にキスをしたら目覚めるかなと思って、緊張しながら彼女の唇に自分の唇を重ねてみる。 唇を重ねて離れた瞬間に、前髪がある子供っぽいボブのショートヘアだった真奈ちゃんの髪の毛が一気に前髪も含めて伸び始めて、彼女の真っすぐな髪が伸びきった時に彼女はゆっくりと目を開けた。  艶っぽいけどウトウトしながら俺の顔を真奈ちゃんは見てくる。 こんな大人っぽい表情をした彼女を初めて俺は見て、ドキドキしてしまった。 彼女は俺に向かって、初めて会った時みたいに俺の体に抱き着いてきた。彼女の伸びきった真っすぐな髪の毛も僕の体に絡みつく。そして僕の耳元で囁いてきた。 「鬼に魅入られた女の子がいた病院に行って、本当の私に会いに来て。受付で私の名前を言えば、どこにいるかわかるから。」 次の瞬間、また、僕は彼女と共に眠りについてしまった。 もう、夢か現実か、生か死の境界もわからずにいたけど、どうでもよく感じていた。  
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