非番の日。

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非番の日。

 あれからまた一週間が経ち、真奈子ちゃんからメッセージが来た。外出許可が病院から出たので、一緒に鵜飼椿君の墓参りに行きたいと。 俺の非番の日を、真奈子ちゃんへメッセージで伝えて、俺はいつもの日常に戻った。  真奈子ちゃんが昏睡状態から目覚めて以来、不思議と童子村での噂を署の人間もショッピングモールで遊んだり買い食いしていたり勉強しながら食べている中学生や高校生などの学生たちからも聞かなくなったし、東雲有紗ちゃんが童子村の敷地内に入ったと思われる日以来、変死体も出なくなった。けど、童子村へ行ったと思われる東雲有紗ちゃんの友達の三人は、変な供述をしていて、精神鑑定もさせられていた。幻覚を見ていたのかと疑われていた。 童子村と呼ばれているけど、ただの山奥にある無人神社から出てきた死体は二体だった。溺死していないのに水死体のような死体と、表面上に異常はないけど内臓が切りつけられている死体。 どの死体として発見された人間も東雲有紗ちゃんと関係もなく関連もない間柄の人間だった。 十五年前の事件に比べると上がってきた死体は少なく、怖い印象もそれほどない。童子村で東雲有紗ちゃんと同じように発見された、当時十五歳の少女だった皆喜多美鶴と言う名前の女性の事件の時も、皆喜多美鶴とは全く関係無かった彼女の同級生や彼女の両親の職場の人間、しかも違う部署の人間の変死体が五体ぐらい見つかっただけだった。色々調べたけど、皆喜多美鶴自身はいじめやパワハラ等の被害に遭っていないが、その死体の人間はどれもいじめの主犯格や、別の人間のパワハラの加害者だった。事件性はないと判断されたけど事故の可能性扱いで、時効も過ぎ、十五年前の童子村事件は幕を閉じたみたいだ。 今回もこの事件も誰も犯人が見つからずに捜査打ち切りになってしまうのかと、勝手に予見はしていた。  真奈子ちゃんが入院している病院へ車で向かう。 女の子とドライブなんて久しぶりだなぁ。裕子ちゃんとも別れてしまったし、と考えていると、病院のドアのガラスから、受付の前にある椅子に座っている真奈子ちゃんが見えた。 よく見ると俺がいつ来るか伺うかのように、周りを見渡す真奈子ちゃんがいた。 そして、俺は病院の駐車場で車を止めて、真奈子ちゃんを迎えに行く。せっかく女の子とお出かけするんだし、めずらしく僕はメンズオシャレ雑誌をかじって清潔感ある格好で外へ出た。 病院の中に入って真奈子ちゃんを呼んで、俺の車の中に彼女を連れ込んだ。 真奈子ちゃんとおしゃべりしながら、鵜飼椿君の墓がある墓場へ車を運転して向かう。 真奈子ちゃん、来週で退院するんだそうな。これから彼女は大学を入り直すつもりらしい。控え目ながらも、鵜飼椿君の意志を受け継ぎたいと話していた。  墓場に着いて、真奈子ちゃんと二手に分かれて鵜飼椿君のお墓を探しに行く。 そして、真奈子ちゃんが鵜飼椿君のお墓を見つけて、大きい声で僕の名前を呼んだ。 「旭日さーん、こっちにありましたー。」 「はーい。」 俺は真奈子ちゃんが立っている場所へ向かって歩く。 真奈子ちゃんと一緒にお線香を焚いて、鵜飼椿君のお墓の前に立ってお祈りして、真奈子ちゃんが独り言を言っていた。 「待てなくてごめんね…かぁ。ううん。待たせてごめんね。」 真奈子ちゃんは寂しそうな表情で、涙を流していた。 俺はそんな彼女を抱きしめようとすると、彼女はそれを拒んだ。 「ごめんなさい。この涙は、この涙だけは自分で拭えるから大丈夫です。」 「あー…、こっちもごめんね。よ、余計なお世話だったよね。」 何をしようとしてたんだ俺はと照れて焦りつつ、少し拒まれてショックだったけど、その真奈子ちゃんの姿を見て、俺は恋人同士の関係と言うか、これが親離れする子供を見守る親の気持ちってこんな感じなのかと、黙って自問自答して、真奈子ちゃんが一人で泣いている所を見ていた。 しばらくして真奈子ちゃんは泣き止んで、僕に謝ってきた。  真奈子ちゃんが泣き止んで、鵜飼椿君のお墓から離れて真奈子ちゃんと一緒に歩いて駐車場へ向かっていたら、童子村事件の生存者である東雲有紗ちゃんと会った。 「刑事さん、今日は私服なんですね。」 「今日は、非番だったからねえ。アハハ。」 「あの、刑事さん、鵜飼椿さんのことを教えてくださってありがとうございます。」 東雲有紗ちゃんは、花束を持って僕に向かって頭を下げてお礼を言ってきた。 「あー、まぁ、あれだよ。本当は機密情報だから、あんまりこのことは口外しちゃダメだよ。」 僕は黙って欲しいという人差し指立てて、自分の口元に持ってくるジェスチャーをして、東雲有紗ちゃんに伝えた。 「何か、鵜飼椿君が童子村と関連したこと、見つかった?」 「あ、いいえ。童子村へ行く前に図書館で調べたことなのですが、孤独死や自殺した男性が童子村へ向かうと鬼となるぐらいしか、わかりませんでした。所謂オカルトの域に入る話ですので、私の仮説なんですが、鵜飼椿さんが童子村の鬼となって何等かの方法で成仏したんじゃないかなって。でもそんなこと、科学的にも実証できないだろうし、本当に霊界とか死後の世界があるってわけでもないですよね。」 例え、鬼の正体が分かったとしても、この世では証明できない。クスリを服用して幻覚見ていると思われて尿検査させられるか、精神病棟に入れられるよなと、考えてしまった。 俺はそんなオカルト的なこの世にとって不可解な存在がいるとは到底思えないし、そんな所へ行ったことも全くないとは何故か言い切れないけど、俺が今、覚えている記憶の限りそれは無いし、ちょっとどう返事しようか悩んでしまって、愛想笑いをして誤魔化してしまった。 「刑事さんの隣にいる女性って、彼女さんですか?」 「あっ、え?そんな風に見える?」 気まずそうに俺は真奈子ちゃんを見て、真奈子ちゃんは恥ずかしながら小さい声で、 「ち、違います…。」 とモゴモゴ東雲有紗ちゃんに伝えた。 「じゃあ、僕達、もう帰るから、またね。」 「あ、はい。」 東雲有紗ちゃんに手を振って、彼女は僕に会釈をして、僕らはすれ違い、僕と真奈子ちゃんは駐車場へ向かって再び歩いた。 東雲有紗ちゃんも鵜飼椿君の事を知って、彼女なりの決心がついたのだろう。 真奈子ちゃんはうつむいて僕の目を逸らして話しかけた。 「先ほどは、断ってごめんなさい。あんなことされそうになったので初めてだったけど、旭日さんが男性として見られないから拒否しているんじゃないことだけは、知っておいて欲しいです。」 「わかっているよ。」 俺は、真奈子ちゃんとは反対の方に顔を向けながら、真奈子ちゃんの頭を撫でた。 「こ、子供扱いしないでくださいよ。」 真奈子ちゃんは不服そうに俺を見て言った。 十五年後もまた同じ変死体事件が起こるかもしれない。けど、十五年後もこのまま平和なままで、寄り添って生きられたら良いなぁっと思いつつ、車を帰る方向へ運転して向かった。 ―――童子村、終。―
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