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童子村変死体事件、捜査初日。
昨日の夜は、何か手書きで真奈子ちゃんと僕との間に同意書とか書いて大変だった。
なんせ、身ぐるみ一つもない状態の真奈子ちゃんだったから、服とか下着とか無いし、真奈子ちゃんは引き籠らなければならなかった。
「…ご両親に連絡入れて迎えに来てもらおうか?」
真奈子ちゃんが家に帰るように促すと、真奈子ちゃんは嫌がる。
とんだ家出少女を受け入れたもんだ、俺も。
「まぁ、女の子一人ぐらいなら、俺の給料だけで養えるかぁ。あのさ、俺の家政婦さんになってくれない?家政婦さんになってくれたら、別に同居しても良いよ。」
真奈子ちゃんは驚いた顔をして、俺の疲れている顔を見た。
「もしかして、真奈子ちゃん、家事できない?」
「それだけで良いんですか?」
「それだけって?」
真奈子ちゃんは俯いて、もじもじして口をつぐんだ。
「…何か、エッチなことしてこないのかなって。」
「そんなわけないでしょ。それに俺、彼女いるし。」
真奈子ちゃんが驚いた顔して、それに俺は若干苛ついたけど、明日から手作りご飯を食べれらるなぁと思うと何故だか嬉しかった。
真奈子ちゃんにパソコンを触らせて、俺のクレジットカードで安い婦人用の服と下着を買わせた。何とか一日でも早く外へ出て買いものができるように。
服が来るまで、真奈子ちゃんに買い物に行かせたりできないから、真奈子ちゃんが明日の朝のご飯の材料と集める為に、俺は閉店ギリギリのスーパーへ行って、真奈子ちゃんが書いてくれたリストを見ながら、材料を買いに行ってきた。
「旭日さん、ありがとうございます。私が作れるものは限定されますが、料理のバリエーションを増やせるように頑張ります。」
真奈子ちゃんは笑顔でそう言った。可愛い。あ、いやいや。俺には裕子ちゃんが…。
その後、真奈子ちゃんは俺のベッドを独り占めして寝た。
朝、起きると味噌汁の匂いがした。
視線を台所に向けると、俺のTシャツを着た真奈子ちゃんが味噌汁を作っていた。
…確かにこの状況なら、俺、裕子ちゃんに浮気しているように見られるかもしれない。けど、やっぱり、裕子ちゃんの方が大切だからなぁ。
それにしても、テレビの中から出てきた人間なのに、普通の人間の女の子と変わらないなぁ。
他の人達には、ちゃんと真奈子ちゃんのことが見えているのだろうか。
真奈子ちゃんは、俺の元に寄ってきて料理で使うフライパンを料理で使うおたまでガンガン鳴らして、俺を起こそうとして頭痛を起こしそうだった。
「旭日さーん。起きてくださーい、遅刻しますよー。」
あ、悪魔の微笑みだ。寝起きを邪魔するのを、この子は楽しんでやがる。
「お、起きてるってば。」
「えー?寝ぐせ凄いですよー?」
そう言って、真奈子ちゃんは俺の髪の毛をわしゃわしゃ触り始めた。馴れ馴れしいな、この子。
「うわー、猫みたいな毛、可愛いですねー。」
「実は僕、外国人の血が入っているんだよね。ハーフとかクォーターほどではないし、
曾祖父ちゃん辺りが外国人で、見た目も普通の日本人と変わらないけど髪の毛もそのせいだよ。」
「へぇー。」
俺は若干イラッとしつつ、「俺の眼鏡知らない?」と聞いたら、真奈子ちゃんは微笑みながら、
「洗面所に置きました。これからは、眼鏡は洗面所に置いときましょうよ。」
と言われて、勝手に俺の私物も触られていた。まぁ、家政婦ちゃんだから仕方ないか。
身なりを整えて、真奈子ちゃんと朝ご飯を食べて、お昼ご飯のことを聞かれたけど、一緒に女の子と住んでいるのバレたくなかったから、お昼は自分でコンビニでも何か買って自分で済ますよと、伝えて俺は出勤した。
さて、東雲有紗ちゃんを置いて、童子村から逃げ切ったと思われる男女三人の大学生の証言の記録を読むか。読んだ後はコピーを取ろうっと。
えーと、何々?
一人目の証言は、東雲有紗ちゃんの友達の印南彩華さんの証言で、
「からかさおばけに自分の足を取り掴まれるけど、東雲有紗ちゃんがお尻で体当たりして、そのからかさおばけって言う妖怪の印南さんの足を掴まえていた腕を、無理やり引き剥がしてくれた隙に、東雲さんを置いて走って逃げてしまった。」
二人目の証言は、印南彩華さんの彼氏の真北樹君か。この男の子の証言によると、
「恐らく、からかさおばけだと思われる傘の妖怪に東雲さんが、その傘の妖怪に吸血されて、死んだのを見て怖くなって印南さんと西宮君と一緒に走って逃げて逃げ切れた。」
三人目の証言は、真北樹君の友達の西宮庵君の証言で、
「四人で童子村に入った時点で、からかさおばけや三つ目の鬼等が現れて、それらの妖怪やら鬼やらが四人に追いかけてきたけど、東雲さんだけはこけて倒れて逃げ遅れて、印南さんと真北君と西宮君の三人で逃げ切った。」
…どの子も言っていることが、結構バラバラだなぁ。
この三人は、今、精神鑑定するかどうかまだ決めかねていないって感じだなぁ。一応、尿検査させて、ドラッグとかして幻覚見ていたかとか身体的に問題ないかとかも調べさせなきゃいけないだろうな。
そもそも、何で十五年前にみつかった当時十五歳だった皆喜多美鶴さんと同じように、衣服は別の場所にあるけど、裸の上に昏睡状態で東雲有紗ちゃんが見つかったのも、気になるなぁ。何かしら法則とかあるのか?この変死体事件。
ますます意味がわからなくなってきた。本当に怪奇現象みたいだな。今、一緒に住んでいる女の子も怪奇現象みたいなもんだけど。でも、あの溺死していないのに水死体のような死体と、表面上に異常はないけど内臓が切りつけられている死体になって発見された二人は、別に東雲有紗ちゃんと何も人間関係無かったしなぁ。
十五年前ぐらいの童子村変死体事件と同じで、童子村で発見された、当時十五歳だった皆喜多美鶴さんとは全く関係無かった彼女の同級生や彼女の両親の職場の人間、しかも違う部署の人間の変死体が五体ぐらい見つかっただけだった。
あ、そう言えば、自殺したイケメンの男の子が、死ぬ前日に童子村へ行ったという、目撃情報がネットにあったような。その子のことも調べてみよう。
しっかし、それにしても、こんな恵まれていそうな男の子でも自殺してしまうもんなんだなぁ。不思議だなぁ。
その男の子は画家で、名前は鵜飼椿君かぁ。顔写真を見ると、男だけど儚くて危うい印象が若干する。もうちょっとしたら、この男の子の没二周忌の絵画個展が開かれるのか。美術館のスタッフとかに鵜飼椿君のことを聞いてみようか。
もしかしたら、何か童子村変死体事件の解決のキッカケになるかもしれないし。
仕事が定時で終わりそうだったから、俺は裕子ちゃんにスマホのメッセージでご飯を食べに行かないか?と誘ったら、裕子ちゃんと少しバーで飲むことになった。
そして、俺は指定された隠れ家みたいなバーへ行く。そしたら、裕子ちゃんはすでに一人で飲み始めていた。
「旭日くん、おっそーい。」
「あー、ごめんね!僕、運転するからお酒飲まなくても良い?」
「良いよ。ただ一緒に飲みたくて、さみしかっただけだから。」
「そっか。」
裕子ちゃんは、素気なく返事して俺を疑うような目で見つつ、バーテンダーにウーロン茶を注文していた。
そして、俺の目の前にウーロン茶が差し出されて、俺はそれを飲んだ。
「旭日くん、もしかして、私以外に女の子いるの?」
真奈子ちゃんのことを彼女だと認識していないのに、その女の勘と呼ばれるものに驚いて俺は、飲んでいたウーロン茶を少し噴き出してしまった。
「そ、そんなことないよ。どうしてそう思ったの!?」
「何となく。ただ何か旭日くんが嬉しそうだったから。」
「そんな風に見える?」
「丸見えよ。」
ちょっと、ぎこちない雰囲気で、今日も裕子ちゃんの仕事の愚痴や、裕子ちゃんの職場の人の悪口を聞いていた。
そして、裕子ちゃんが少し酔い潰れた後、彼女と僕の飲み代を払い、僕は裕子ちゃんの体をかかげて、車に乗せて、彼女の家まで送って、今夜は裕子ちゃんと何もせずに、まっすぐ真奈子ちゃんが居候している俺の家へ戻った。
家に戻ると、机の上には作られた夕飯だけがのせられていて、真奈子ちゃんはソファで寝込んでいた。
「ただいまー。」
そう一言言ったら、真奈子ちゃんは眠そうな笑顔で、「おかえりなさい。」と返してくれた。
さっき、僕の彼女の裕子ちゃんに勘づかれたばかりなのに、真奈子ちゃんにほだされそうになる。そして、真奈子ちゃんをあだ名で呼びたくなった。
「夕飯作ってくれたんだね。ありがとう。」
「そういう約束だったじゃないですか。」
真奈子ちゃんは眠そうに俺をみて微笑む。
「真奈子ちゃん、せっかく俺の家政婦みたいになったんだし、親睦を深める為に、真奈子ちゃんのことを真奈ちゃんって呼んで良い?」
「良いですよー。なんか子供の頃に戻ったみたい。真奈ちゃんって私の子供の頃のあだ名だったんですよねー。」
と、真奈ちゃんは言って、そのまま嬉しそうに微笑みながらソファで寝た。
夜ご飯を食べ終わった後、俺は今日の一日を振り返りながらスーツを脱いで、シャワーを浴びたり歯を磨いたりして、浴室を出てTシャツと新しい下着(トランクス)に履き替えた後、電気を消してベッドにダイブして体を仰向けにして、目を閉じ、眠りに落ちた。
あの童子村と呼ばれている山奥にある無人神社の風景と、鵜飼椿君と思われる青年がいて、僕はいつの間にかその敷地内に仕事服であるスーツを着て立っていた。
夢なのか、これは。死者が夢に出てくるなんて。そして、彼は僕を少しばかり睨みつけて落ち着いた口調で、僕に話しかけてきた。
「今の貴方の彼女って、本当に大事なんですか?世間体の為に付き合っているんじゃないのですか?本当は自分でも都合の良い男にされているって、わかっているのではないですか?」
「いきなり、何を言ってくるんだよ…。」
この男の子が何を考えていないのかわからない。と言うか、何故僕がこんな所にいるのかも、状況が把握できない。戸惑っていたまま、僕は、鵜飼椿君と思われる男の子を見つめて突っ立っていた。
「ケリをつけてきて欲しいって言っているんですよ。そして、真奈子ちゃんを…。それにしても、あんなに最初から彼女から貴方に心を開いてくれているなんて、羨ましいですよ。貴方。」
と、言い残して、鵜飼椿君は後ろを向き、歩き始めたと共に鵜飼椿君の体もどんどん巨大化して、鵜飼椿君とは違う誰か見た事もない姿になった。
その鵜飼椿君だった者は、もう一度振り返って僕を見て、僕は驚いた。
一本角が生えている、高校生の時の図書館で見た、ギリシャ神話の本に出てきそうなサイクロプスみたいな一つ目の鬼の顔になっていた。
それを見て俺は目を逸らしてしまい、鬼の祟りとかそんなのではないか、と少し何故か心配してしまった。
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