童子村変死体事件、捜査二日目。

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童子村変死体事件、捜査二日目。

童子村変死体事件、捜査二日目。  目を覚ますと、真奈ちゃんが俺の顔を心配そうにのぞき込んできた。 「…今、何時?」 「まだ六時ですよ。珍しいですね、こんな時間に起きて。悪夢でも見たんですか?」 真奈ちゃんは子犬みたいな表情で俺を更に見てきた。 「あぁ。でも、大丈夫だよ。」  真奈ちゃんは安心した顔をして台所に戻り、俺はゆっくり体を起こしすぐさま洗面所へ行き、寝ぐせを触ってまだ直さなくても良いかと思いながら自分の顔を鏡で見て、顔を水だけで洗った。 …やっぱり、俺はイケメンじゃないよなー。目がぱっちりしているけど、奥目なのに一重だし。奥目なのは、多分、外国人の血が出ているからだろうな。でも、日本人の血も混じっているから、目と眉毛の距離も広い。あの鵜飼椿君とは、ちょっと違う顔だなぁと、ため息をついていた。 あの夢の中で鵜飼椿君が言っていた、「あんなに最初から彼女から貴方に心を開いてくれている。」が、僕の心の中で引っかかっていた。これは真奈ちゃんのことか? 確かに、真奈ちゃんが目覚めた直後はあんなに俺の事を警戒していたのに、今は俺には敬語で話しかけつつも、気を許しているような気がする。  俺は、寝ぐせを直さずに歯を磨いて洗面所から出たら、真奈ちゃんがまた、俺の髪の毛のことでからかってきた。 「寝ぐせついてるー。」 「あーはいはい。わかってるって。」 真奈ちゃんの指摘することを無視して俺は、机の元に座って朝ご飯ができるまで待っていた。  朝ご飯を食べた後、歯を磨いてスーツに着替えて俺は、真奈ちゃんに一言、 「行ってくるね。」 と言い、真奈ちゃんは、笑顔で、「いってらっしゃい。」と俺を見て微笑んで言った。  署に着き、いつも通り、パソコンでタイムカードを切り、童子村事件捜査の資料を読み返したり、別の事件の調査のことで少しだけ資料を読み返したり、朝礼が始まるまで仕事の準備をしていた。  朝礼で童子村変死体事件捜査の報告や、あの男女三人の大学生のことを捜査一課の他の刑事たちと情報連携し、他の殺人事件や他の県署の殺人事件や逃亡している殺人犯の情報も共有して、今日の朝礼も少し頭の中で整理することで忙しかった。正直、頭がそこまで回らない。  行方不明になっていた、東雲有紗ちゃんが見つかって以来、まだ病院から何の連絡もないので、恐らくまだ昏睡状態なんだろう。十五年前の事件のファイルを読み返しても、少し状況が似ている。少し違うのは、死亡したと言うか、変死体として見つかった人間の数なんだよね。  一応、またあの男女三人の大学生に連絡して、専門家に精神鑑定してもらおうかと思った。 起訴とかできる段階じゃないんだけども、東雲有紗ちゃんが生きて見つかったのは、事実だし、これは他の人にあの三人の大学生に精神鑑定してもらえるように手続きするのを任せようか。あの子らが別にあの変死体の犯人とも思えないんだけど、念には念をね。  他の刑事にあの子らに、尿検査と精神鑑定のことの手続きと了承してもらえるように頼んだら。夏休み中の大学生だからか、すぐに了承してもらえたみたい。早速、尿検査で違法薬物を服用して、幻覚や幻聴を起こしていないか確かめた後に、精神鑑定だよね。できるだけ一日に尿検査の結果を出してもらえるようにしよう。  俺は、鵜飼椿君のことを再びネットで検索してみた。 やはり、童子村へ行った目撃情報があるだけかぁ。当時の死亡解剖のファイルを読んでも、他殺の可能性もなく事故の疑いも無しで、死因は首吊りによる窒息死か。 童子村変死体事件の何かに繋がる可能性があるかもしれないことを賭けて、俺はさっそく先輩の許可を得て、自家用車で鵜飼椿君の個展が行われている美術館へ向かった。  美術館の受付嬢に鵜飼椿君の展示会がどのスペースで行われているか聞いて、その会場へ向かった。 鵜飼椿君が生前、描いた絵画作品が色々置かれている。そこには、日本画のようなテイストの絵画もあって、童子村と鬼だと思われるような絵画もあった。 やっぱり絵画とか、そういう芸術には興味がなくてつまらなく感じていたから、俺はつい、あくびをしてしまった。 …こんなんで、生前の鵜飼椿君がどういった心理だったとか俺は精神科医の先生でもないから、分析できないしなぁ。 引き続き、彼が描いた絵を見ていたら、俺より少し年下に見える男の子から声をかけられた。 「こんにちは。本日はこの絵画個展にお越し下さり、ありがとうございます。」 「あー、いえ。大丈夫だよ。えーと、こういう者なんだけどぉ…」 俺は、この美術館のスタッフかと思われる男の子に、警察手帳を見せた。 「あ、…刑事さんでしたか。あのー、どうして、この椿の絵画個展に?」 「僕、今、童子村の変死体の事件を捜査していてさ。鵜飼椿君が生前、童子村へ向かって行ったって言う、目撃情報をネットで見てそれが事件に関係あるか調べたくて。あと、最近見つかった変死体となって発見された二人と何か因果関係もないかどうかも、調べたくてね。」 「そうですか、刑事さん。僕は、この美術館のスタッフの伊吹柊と言います。伊吹は伊賀のいに、吹は笛を吹くのぶき、柊はヒイラギの漢字でしゅうと読みます。」 伊吹君は、物凄く礼儀良さそうな男の子で、俺に会釈をして自己紹介してくれた。  この後、俺は変死体となって見つかった二人がどういった人間だったか伊吹君に伝えて、本当に鵜飼椿君とは関係ないか聞き取りを伊吹君としていた。 「あのー。椿のことで知りたいことがあれば、生前、彼が使っていたスケッチブックとか、お見せしましょうか…?」 「え、良いの?」 「良いですよ。ちょっと、椿のお父さんから預かったスケッチブックを持ってきますから、待っていてください。」 伊吹君はそう言い残して、スタッフ専用の部屋へ向かって、数分後に鵜飼椿君が生前使ったと思われるスケッチブックを持ってきた。 「これ、どうぞ。」 「わざわざ、ごめんねえ。」 俺は、伊吹君から渡された鵜飼椿君のスケッチブックやラフ画をパラパラと見たり、スケッチブックに書かれていたメモを読んだりしていた。 下書きだけど、繊細に描かれていた絵が沢山あった。そして、俺がものすごく驚いたものを見つけた。真奈ちゃんにかなり似ている横顔やうつむいた表情が描かれた絵もあった。 そのページのスケッチブックには、色んな表情の真奈ちゃんと思われる女の子が描かれており、西東まな子と書かれていて、更に驚いた。 鵜飼椿君は、真奈ちゃんのことを知っている…?  俺は、鵜飼椿君のスケッチブックを一通り見た後、伊吹さんに鵜飼椿君が生前使っていたスケッチブックを返した。 「この女の子は誰かな…?」 「あー、この子ですね。一つ下の学年の女の子なのですが、椿が気にかけていた女の子ですね。」 「…この女の子って知り合いなの?」 「知り合いと言うか、椿の後輩の女の子ですよ。ですが、椿が死んでから半年後ぐらいに、何か病気になって昏睡状態になっているから、ご両親から退学届が出たという、噂話は聞いたことがありますね。すみません、この女性のことは同じ学校に通っていたはずなのですが、あんまり、僕も覚えていないのですよ。力になれなくて申し訳ないです。」 伊吹君は俺に頭を慌てて下げた。 「こちらこそ、何かごめんね。色々気を使わせちゃって。」  鵜飼椿君が童子村変死体事件に関わっていたかどうかよりも、俺は真奈ちゃんの事が気になった。昏睡状態ってどういうことなんだと。あのスケッチブックに描かれていた真奈ちゃんに似ている女の子は、真奈ちゃんとは別の女の子かとか。 なぜ、真奈ちゃんは俺の家のテレビから何かのホラー映画みたいに出てきたのと関係があるのかとか、色々深く考えていた。  …もしかしたら、東雲有紗ちゃんが入院している同じ病院先に行って、西東真奈子ちゃんがいることを確認しに行ってみようかとも、考え付いた。 「いや~、驚いたよ。今、このスケッチブックに描かれていた女の子と、そっくりな知り合いの女の子がいてね。あ、一応、僕のスマホで、いくつか鵜飼椿君が描いた女の子のスケッチを撮って良い?」 と質問して、俺は動揺しながら、伊吹君に話しかけた。 「良いですよ。ですが、絶対にネットに上げたりしないでくださいね。あ、そう言えば、椿のお墓に、そのそっくりな女の子を連れて来られたら、椿も喜ぶと思いますよ。」 「え?僕達、鵜飼椿君と何も関係ないのに、鵜飼椿君のお墓参りに行って良いの?」 俺が質問すると、伊吹君はメモ帳を取り出して、お墓の住所を書き始めて、俺は、真奈ちゃんにそっくりな女の子のスケッチが描かれてあるページをスマホで写真を撮って、その画像を保存していた。 「大丈夫ですよ。彼、人懐っこかったから、知らない人が来ても喜んでくれますよ。」 伊吹君は微笑みながら、お墓の住所を書いたメモ帳の紙を破って俺に渡してくれた。 「ありがとう。わざわざごめんね。」 俺は伊吹君に、自分の頭を掻きながらお礼を言って、引き続き、鵜飼椿君の絵画の作品を何回か見回した後、署に戻った。  真奈ちゃんが昏睡状態だった?じゃあ、俺の家にいる真奈ちゃんはなんだろうと疑問に思いながら、書類関係の仕事をこなし、今日は定時で帰れた。 裕子ちゃんからの連絡も無し。僕から裕子ちゃんにご飯や飲みに行くのを誘っても、既読が付いているだけで、何にも返事が来なかった。どうしたんだろうかと思ったけど、反応しないことに決めた。  今日も、定時以内に病院から連絡がなかったなぁ。東雲有紗ちゃんはまだ、昏睡状態か。 目が覚めたとしても、すぐに事情聴取ができるわけじゃないけどさ。 それにしても、本当に怪奇現象みたいな事件だ。この世と呼ばれる物質世界では、解明できない事件なのかな。あの真奈ちゃんのようなこと、起こるようなものなのか?  家に帰ると、真奈ちゃんが俺に微笑んで、視線を台所に戻して夕ご飯を作ってくれていた。 「旭日さん、お帰りなさーい。」 …あのスケッチに描かれていた女の子と本当にそっくりだなぁ。あのスケッチには小さいなえくぼがあるって書いてあったけど、今、それを見つけた。 真奈ちゃんが今、本当に昏睡状態だったら、目の前にいる真奈ちゃんはなんだろうか。  俺は真奈ちゃんがこの世の不可解な存在だと思えなかったので、真奈ちゃんの両方の頬を少し引っ張ってみた。 「なにするんれすか?ゆうはんぬきにひまふよ。」 「あーごめんごめん。つい、柔らかそうなほっぺだなって思って、つい。」 この感触は本物の血が通った生きた人間そのものだよなぁと怪しんでいたけど、急に頬を引っ張ったから、真奈ちゃんの機嫌を直さなければならなかった。  真奈ちゃんが夕飯に使った食器を洗って、お風呂に入って、髪を乾かして、一人でベッドに入って、俺のベッドを占領して寝た後、俺は自分のパソコンで今日の話のことをまとめていたら、電源が落ちているテレビの画面に、鵜飼椿君と思われる男の子が一瞬映ったように見えた。 …俺、疲れてんのかな? 疲れたんだろうと思って、俺はさっさとソファでひと段落着いた所で寝た。
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