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病院から通報があった日。
一昨日は、裕子ちゃんとは何も無かったので、さっさと家に帰って、西東真奈子ちゃんの作品をネット検索していた。
真奈ちゃんがノートパソコンでネット検索していた俺の背後から抱き着いてきて、
「ちょっとぉー。何検索しているんですかー。」
って、言って俺の目をふさいできたので、抵抗しつつも、検索していた。
「あのさ、俺、彼女いるからやめてくんない?そういうこと。」
「はいはい。私、抱きしめるのには調度良いサイズをしているのに、彼女より若くて可愛い私に乗り換えないんですか。」
…この子もナチュラルに黒いこと言うよなぁ。
僕、あんまり略奪とかされたくないし、したくないのに。それに、今の僕、モテ期なんだろうけど、調子に乗ったことできないなぁ。鬼とかそういうこともあるし。
「乗り換えないよ。裕子ちゃんに悪いからね。」
と、真奈ちゃんに釘を刺しておいた。ずいぶん、不服そうな顔をしていたけど。
あとは、大鷺若菜と山路涼介の作品も検索してみたけど、西東真奈子ちゃんのと見比べると似ているというか。
西東真奈子ちゃんの作品は、俺が思っていたのとは予想外の絵画作品だった。
繊細な滝の絵画作品があったり、繊細なタッチの森や山の絵画作品もあったりしたけど、どこかしら似ているというか。
もしかして、盗作とか?
それに、鵜飼椿君の作品とも似ているような。
俺は変なことを考えてしまった。もし、鵜飼椿君が怨霊とか鬼ならば、この二人を殺したんじゃないかって。
でも、彼はそのころには画家として確立していたし、彼は盗作で気を病むことはないだろう。もしかしたら、その二人が西東真奈子ちゃんの作品を盗作していたと仮定して、それに対して怒ったとか?
…やっぱり、僕、疲れているんじゃないかと思って、その日の夜、いつもより早く寝た。
そして、今日、僕は定時で上がれたんだけど、二、三時間後、東雲有紗ちゃんが入院している病院で、飛び降りたか、落とされたかの死体を見つけたと、通報が来たので、その現場捜査の為にパトカーに乗って向かう。
死体発見現場に行くと、すでに二台ぐらいのパトカーと警察官が来ていた。パトカーのサイレンが少しうるさいと、自分が警察の人間だっていうのに思ってしまう。
死体は誰かと確認する為に、俺は先輩刑事に少し話を聞きに行って良いかと聞いて、許可を取り、まず精神病棟の受付に行った。誰か入院していて、未だに病棟に戻ってきていない人がいないかどうか聞きに行く。
そして、この病院の精神病棟へ入院していて、十五年前の童子村事件と関係があった、皆喜多美鶴と言う三十歳の女性がまだ病棟へ戻ってきていないことを確認した。
他にも、精神病棟へ戻ってきていない患者さんはいないかと、聞くと、皆喜多美鶴さんだけが戻ってきていなかった。
…残念だが、恐らく、この死体は皆喜多美鶴さんなんだろう。
病院の外に出て先輩の刑事と話していると、また、童子村事件と関連があるのかと、疑問視して、俺に話を持ち掛けてきた。
「なぁ、旭日。お前、童子村のことを知っているか?」
「詳しくは知らないですけど、十五年周期で変死体が出てきて、その変死体の正体は実は鬼が喰っているとか言う、アレですよね?そう言う怪談とか怪奇現象って、田舎にはよくある話なんですかぁ?」
「さぁな。皆喜多美鶴は、確か、今回の東雲有紗と同じような感じで、童子村と呼ばれる、無人神社で発見されたようだな。やはり、この事件に関わると不幸な末路が待っているのか。」
俺は少し、面倒くさかったので、先輩に合わせて返事をした。
「僕達で止められれば良いんですけどねぇ。」
「童子村は元々、本当に村だったらしいからな。身寄りのない男で出来た村だったそうだ。」
「へぇ。そんな歴史があったんスねー。」
今日も、残業かと俺はため息を吐いた。
皆喜多美鶴かぁ。色々、ネットで検索してみると可哀想な話ばかり載せられていたなぁ。人間の悪意とか噂話とか、その人に対する偏見って、集団化して大きくなると、ここまで醜くもなるのか。そして、その匿名で書き込んだり、初対面なのに集団で暴言を吐いたり、嘲笑してきたりする人間達は、いつでも安全圏内から攻撃出来て、そしてのうのうと安全圏内に戻って普通の人を演じて知らないフリして暮らしていける、無責任で残虐な人間なんてその辺にいくらでもいるんだなぁ、と、虚ろな目で病院の近くにある墓場を眺めながら、俺はそう思った。
暗い雰囲気で署の方に戻り、色々書類整理と皆喜多美鶴かどうかDNA鑑定をしてもらい、今日はもう遅いので、明日から皆喜多美鶴の事件は、事件性か事故か調べることになった。
家に戻って電気をつけると、夕ご飯の作り置きがあった。
きっと、真奈ちゃんが作ってくれたんだろう。
やっぱり、お嫁さん欲しいかも。あ、お嫁さんって言うより家政婦が欲しいかも。でも、今日もまた一昨日と同じ夕飯のメニューだった。
料理のレパートリー増やしてって言わなきゃなぁ。真奈ちゃんに。
真奈ちゃんは珍しく、俺のベッドを独り占めしないで、ソファで何故か俺のYシャツを握りしめながら、寝ていた。
よく見ると、俺のYシャツの匂いを嗅いでいた。
…やっぱり、俺に気があるのか、この子。でも、俺には裕子ちゃんがいるしなぁ。
作り置きされた夕飯をレンジで温めて、それを食べて、風呂に入って歯を磨き、シャワーを浴びて頭を洗って、パジャマに着替えて、俺は、真奈ちゃんの頭を撫でて、久しぶりに自分のベッドを独り占めして寝た。
目が覚めると、まだ六時ぐらいだった。
まだ眠たかったので、薄目で真奈ちゃんが料理している姿を眺めていた。
そして、朝ご飯を作るのにひと段落したのか、真奈ちゃんは俺が寝ているベッドへ近寄り、おたまでフライパンを叩いてうるさい音を出してきた。
「…うるせぇんだよ。このクソガキが。」
俺は少しばかり、不機嫌になる。
「旭日さん、起きましたか?」
「起きてるよ。」
「じゃあ、二人で朝ご飯食べましょうよ。」
「そんな起きて今すぐには食べれないよ。」
「あら、そう。って言うか、寝ぐせすごーい。面白ーい。」
うるせえ、クソガキ。
真奈ちゃんは俺の寝ぐせを面白がって、俺の短い髪を触ってくる。
「猫ちゃんみたいな毛でふわふわ~。」
「ちょっとやめてよ。今から、洗面所行くから。」
俺はそう言い残してベッドからのそのそと出ていき、洗面所へ向かい鏡を見て、自分の下半身も見た。
…ちょっと、寝ぐせ直しと歯磨きの次いでに朝シャンしよう。
お風呂で済ましておこう。うん。
俺もまだまだ元気で若いんだなー。それか、ロリコンになってしまったかのどっちなんだろう。
まぁ、ロリコンって言っても、真奈ちゃん、自称十九歳だけど。
「いただきます。」と、真奈ちゃんと俺は手を合わせ、真奈ちゃんが作ってくれた朝ご飯を食べる。
「今日も残業かもしれないから、先、寝ていても良いよ。」
「りょーかいでーす。」
…真奈ちゃんはお気楽だなぁ。羨ましい。
朝ご飯も食べ終わり、靴下を履いて、そして靴も履いて、俺は家の外へ出て行った。
署に着いて、今日の仕事の準備やパソコンのデータにあるタイムカードを入力して切ったり、今日の仕事内容の確認をしたり、全体朝礼が始まるまでそれらをこなしていた。
全体朝礼が終わり、昨日の死体のことについて調べることにした。DNA鑑定の結果から、やはり、病院で発見された死体は、皆喜多美鶴だった。
そして、皆喜多美鶴が入院していた精神病棟へ電話をかけて、事件性か事故かどうか調べる為に彼女の病室を捜査しに行っても大丈夫かと質問すると、大丈夫だと、返事が返ってきたので、東雲有紗ちゃんが入院している病院へと向かった。
皆喜多美鶴が入院していたと思われる病室に白い手袋をつけながら入った。遺書がないかと、確認していたら、手紙らしきものが置いてあった。
その手紙を読んでみると、俺は少しばかり悲しくなった。
「ずっと、童子村と呼ばれるあの無人神社で私が見つかったあの日から、地獄の日々だった。ものすごく辛くて苦しかった。でも、同じ童子村の生き残りである、東雲有紗ちゃんと出会えて、同じ病院で入院していて、色々、楽しかった。ありがとう。でもごめんね。さようなら。」
その遺書らしきものを捜査員に手渡しし、あとは捜査員に仕事を任せて、俺は、署の方へ戻った。
それにしても、なぜあの東雲有紗ちゃんの名前が、皆喜多美鶴の遺書と思われる紙に、あったのだろうか。二人は知り合いかなんかだったのか?
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