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行方不明届が出されて、受理された日。
暑いなぁ。クールビズにしたって別に涼しくなるわけないだろう、と俺は、イライラしていた。
いつも通り、たまに仕事をサボって仕事をこなす。
こんな辺鄙な田舎だ。
殺人事件なんてそうそう起きない。起きたとしても、自殺ぐらいしかないか。
それか、死体遺棄の為に使われる土地として、発見されるか。
田舎は暇だなぁ、と思いながら、俺は警察署の中の窓を見て、クソつまんねえ風景を見ながら、かけていた眼鏡を拭きとっていた。
「旭日(あさひ)、お前ちょっと、行方不明届を出したいと言っている、中年の男女の市民がいるんだが、対応してくれないかー?」
「わかりました。今すぐ、行きます。」
どうせ、何か両親と喧嘩して家出して帰って来ないメンヘラな女の子の捜査願いだろうと、思ってやる気なさそうに、その中年の人達の聞き取りをしに行った。
「本日はどうも、わざわざ署の方にお越し下さり、ありがとうございます。私、旭日 昇(あさひ のぼる)と言います。以後、お見知りおきを。行方不明届を出したいとのことですが、行方不明者の写真などございますか?」
その中年の男女は、父親だと思われる男性は普通の細身の中年と言う感じだったけど、その娘さんの母親だと思われる女性は、昔美人だったのかと思うぐらい背が高く、その年齢の割にはキレイな女性だった。
こりゃまた行方不明の娘さんも、美人だった。
地毛なのか髪を染めているのかわからないけど、前髪無しの栗色のワンレンボブショート。
目の色も色素薄くて明るい茶色い瞳をしていた。
…正直言って、好みだ。あ、いかんいかん。俺には裕子(ゆうこ)ちゃんがいる。それでも、少しばかり嬉しいのが隠せなかった。
「この女性のお名前を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「東雲有紗と言います。漢字で、しののめは東に雲、ありさは、有権者の有に、糸へんに少ないです。」
「かしこまりました。それでは、東雲有紗さんの身長など、他の外見的特徴を教えてください。」
「有紗は170センチぐらい身長あって、服装はよく若い子に人気のブランドを着て、流行りのファッションを着ていますが、普段から一人でいるような娘でした。」
東雲有紗ちゃん、意外と身長高かった。
「そのブランド名など、ご存じでしょうか?」
「い、いえ。申し訳ないです。」
「かしこまりました。」
俺は聞き取りで得た情報を淡々と書き写していく。
「それでは、行方不明の東雲有紗さんの職業など教えてください。」
東雲有紗ちゃんのご両親が知る限りの彼女の身元、バイト先や交友関係、行っている大学を聞き取って書いて、いつ頃からいなくなったか等も事情聴取もして、それらも、書き込んだ。
一通り聞き終わった後、俺は大事なことを聞くのを忘れた。
「す、すみません、一つ、大事な事を質問するのを、忘れていました。東雲有紗さんの本籍が載せられている住民票等、今、所持しておりますか?」
「はい。」
東雲有紗ちゃんの住民票をご両親から渡されて、俺はそれを受け取った。
「申し訳ないですが、何か二日前ぐらいから連絡も取れないとおっしゃっていましたよね。何かしらの事件に巻き込まれた可能性がありますので、行方不明届を受理するか、別の刑事とも相談してきます。受理され次第、即捜査が始まりますので、見つかり次第、連絡いたします。」
「…そうですか。」
「失礼ですが、東雲有紗さんのご両親の連絡先も教えて頂ければ幸いです。」
東雲有紗ちゃんのお父さんは、彼が持っていたカバンから名刺を取り出し、それを俺に渡してくれた。
そして、東雲有紗ちゃんのお母さんの連絡先は普通に聞き取って、それを俺は書いていた。
聞き取りも一通り終わり、東雲有紗ちゃんのご両親を署の出口まで案内して、俺は、捜査一課へ戻って、先輩刑事に行方不明届のことを話し、事件性があると判断して、東雲有紗ちゃんの捜索を始めるように、捜査員に電話をして指示をした。
スマホを見ると、裕子ちゃん、もとい俺の彼女から連絡が来ていた。
「今日も残業?」
と、ただ一言だけメッセージが届いていた。
「ううん。何食べたい?」
俺は、裕子ちゃんの気分を察して、仕事帰りにお食事デートでもしようかと思って、誘ってみた。
裕子ちゃんとの出会いってどんなんだったかな?
あー、いつも残業の時に行く、喫煙所の近くにある休憩所で一人でいて危なそうだったから、俺から声をかけたんだった。
「月島 裕子(つきしま ゆうこ)って言います。旭日さん、って言うんですね。ナンパですかあ?」
「まぁ、そんなところかな。こんな場所で一人女性がいたら、危ないでしょ。」
そのまま会話を続けていたら、なんか彼氏と別れそうとか言っていて。
その時に、「俺で良ければ力になりますよ。」的なことを言って、連絡先交換して、段々、一緒にご飯食べるようになって、その後、一緒に遊ぶようにもなって、いつの間にかラブホにも行くことになって、裕子ちゃんとは一線を越えたのが、僕達が付き合ったキッカケだっけ。
この頃はまだ髪の毛、少し伸びていたなぁ。
もう初めてスる頃には、裕子ちゃん、彼氏とも別れたとか言って。
付き合ってまだそんなに日は経っていないけど、もしかしたら、裕子ちゃんといずれ結婚するのかなと、ぼんやり考えながら、どこでご飯を一緒に食べるか悩んでいた。
スマホでメッセージ交換をしていたら、裕子ちゃんがいつも行っている居酒屋で、二人でご飯食べることになった。
スーツを着たまま、裕子ちゃんと待ち合わせる。車を駐車場へ止めて、俺はその居酒屋へ入っていった。
裕子ちゃんが来て、僕は居酒屋のメニューを見て、今夜食べたいものを頼んで、注文してから、五分ぐらいで僕たちが頼んだご飯が来た。
裕子ちゃんは、今日の仕事の愚痴や職場の人の悪口を聞いて僕は、徹底的に聞き役に回って、なだめていた。
その後は、車で裕子ちゃんの家まで送って、僕も明日も早いから、自宅へ一直線で帰った。
今日も仕事、大変だったなぁ。
東雲有紗ちゃん、ねぇ。
変死体となってなければ良いけど。
俺は、うだうだ夜中のテレビをぼんやり見た後、シャワーを浴びて、歯を磨き、部屋着のいつの日か大学の時に行かされたフェスのダサくて派手な何かのバンドのTシャツとトランクスのパンツ一丁に着替えて、部屋を暗くして、目を閉じて寝た。
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