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いつだっただろうか、私は恋をした。初恋だ。明確な理由も記憶もない。だが、はっきりと分かる。あなたが好きだと。貴方に、私は惹かれた。
貴方の顔を見たい。貴方の声が聞きたい。でも、それは許されない。貴方の顔を一生見ることなく私は散っていく。私の気持ちを伝えられないまま。ああ、
なぜ私は人間では無いのだろうか。目が見えない、耳も聞こえない。喋ることも出来ない。あぁ、なぜ私は人間に生まれなかったのだろう。
なんだろう?体が揺れてる。どうなっているんだろう?あ、…止まった。
私は貴方に体を持たれる。え?どうなってるの?え?
訳がわからないまま、私は貴方に運ばれる。あ、降りられた。
降りられたことに安心していると突如体に痛みが走った。えっ何!
何故か体に痛みが走り困惑していると、強い睡魔が襲ってきた。私は眠気に抗うことが出来ず、意識を手放した。
うーん、あれ?寝ちゃったのかな?
私が目をさますと、そこには知らない何かがいた。え?何で私の部屋に誰かいるの!?
…ってあれ?目、見えてる。
そう、私は目が見えるようになっていたのだ。寝ていた間に何があったのだろうか。取り敢えず、私は現在の状況を調べるためにあたりを見渡す。目の前には何かがおり、私はその後ろに寝転んでいる。私はマットの上に寝転んでおり、感触からいつも住んでいる所だと考えた。すると、何かが私に気づき、こちらに向かって来る。咄嗟のことに私は身動きがとれずなにかに捕まってしまった。しかし、そのなにかにはどこが安心感を覚え、すぐにリラックス出来た。何かは、私の顔に頬を擦らせ、私のお腹をくすぐってくる。
あれ?この触り方…あの人の…
私はこの何かの触り方に既視感を覚え、記憶を辿り答えを探す。
…あぁ、貴方だったのですね。
何故私は気づかなかったのだろう。匂いが、雰囲気が。貴方であることを物語っている。私は貴方の顔、声が分かる。一生聞くことも、見ることもないと思っていた。でも、違った。貴方の顔が見える、貴方の声が聞こえる。私はそれだけで幸せだった。貴方は笑顔を咲かせ、私を再び抱き上げた。貴方は私のお腹に顔をうずめる。恥ずかしいけど。貴方が喜んでくれるなら我慢は厭わない。
…あぁ、やっぱり私は、貴方が好きだ。貴方の全てが愛おしい。
私は猫で、貴方と同じ種族ではない。貴方の喋っている事もわからないし喋ることもできない。私の恋は実ることはないだろう。でも、それで構わない。
貴方の側にいられるだけで、幸せなのだから。
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