俺のハートは右斜め

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 ――ピピピピピピ  ――ポチ 「ううーん」  朝の目覚まし時計のアラーム音で起床する。布団から這い出るとカーテンを開き、思い切り背伸びをした。  サッシを開けると、気持ちのよい朝日が照りつけ、雀のさえずりが聞こえてきた。 「今日はいよいよ声優プロデビューの日。気合い入れないとなあ!」  両手で顔をパシッと叩いて、目を大きく開いた。机にあった書類を手に取ると、パラリとページをめくりスタジオ収録のスケジュール表に目をやった。  声優を目指して、はや十年。もうオジサンと言われてもおかしくない年齢だが、自分の夢を諦めることはできなかった。そしていよいよチャンスが巡ってきた。  アニメの声優オーディションに合格し、今日はそのスタジオ収録初日だ。  今日のために揃えた上下のカジュアルスーツ。多少の値は張ったが、少しでもいい印象を与えて、これからも仕事をもらえるよう頑張りたいと思っていた。  俺は朝食のトーストを頬張り、顔を洗い、髪を整え、歯を磨くと鏡に向かってニィとほほ笑んでみた。  完璧だ。朝寝坊もせず、ダラダラとテレビをつけることもなく、トイレでぼーっとすることもない。  今日の俺って最高! ビシッ!  今、親指立てなかったかって?  もちろんだ、それが俺の決めポーズ。いつでもどこでもかっこよく決めるのが、俺のライフスタイル。  申し遅れた、俺の名はヨコチ・ジョーンズ。外国人のような名前だが、純粋な日本人だし、英語もしゃべれない。親の映画好きがたたり、キラネームを付けられた。漢字で書くとどうなるかというと……恥ずかしくて言えたものではない。 「さあ、行こう!」  気合い十分で部屋のドアをガチャリと開けた。ドアに鍵をかけて、アパートの階段を降りようとしていた。
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